著者
角 友起 岩本 義輝
出版者
日本眼光学学会
雑誌
視覚の科学 (ISSN:09168273)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.12-18, 2010 (Released:2019-11-08)
参考文献数
17

サッケードは,視覚目標を視力の高い網膜中心窩で捉えるための急速眼球運動である。中心窩は小さいためサッケードには高い正確さが求められる。この正確さを支えるのが,サッケード適応と呼ばれる運動学習の仕組みである。サッケード適応は,運動のエラーに関する視覚情報によりドライブされる。適応の実験的誘発にはサッケード中にターゲットを移動させる方法(McLaughlin paradigm)が広く用いられ,適応の多くの性質が明らかにされてきた,近年は,サッケード適応の神経機構に関する研究が進展し,小脳虫部皮質が可塑性の場として注目されている。しかし,随意運動学習における教師の役割を果たす神経信号に関してはこれまでほとんど知見がなかった。本総説では,サッケード適応に関する現在の知見を簡単にまとめた後,中脳上丘電気刺激を用いたサッケード学習信号に関する筆者らの研究を紹介する。
著者
吉田 薫 岩本 義輝
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

前庭眼反射やサッケードの正確さは適応学習により維持されている。本研究では、1)これらの眼球運動制御に抑制系が果たす役割、2)サッケード適応の時間空間特性と適応を引き起こす誤差信号の伝達経路を調べた。1)マルチバレル電極を用いて単一ニューロン活動を記録しながら、GABA受容体、グリシン受容体の阻害薬を電気泳動的に投与し抑制入力の寄与を解析した。半規管系前庭二次ニューロンはGABA作動性抑制を受け、その遮断により頭部回転応答の振幅が著明に増大した。この抑制はおそらく片葉に由来し、前庭性運動のゲイン調節を担うと考えられた。一方、サッケード運動指令の形成には、グリシン作動性抑性が重要な役割を果たすことが示された。バーストニューロン(BN)とポーズニューロン(OPN)の相互抑制、OPNへのトリガー抑制はいずれもグリシン受容体を介すること、これらの抑制によりサッケードと注視の急速な切り替えと安定な注視が起こることが明らかになった。2)サッケード適応課題遂行中に視覚誤差の方向を2度逆転させる実験により、学習反復の効果を調べた。先行適応が次の適応を促通し学習速度が上昇すること、この促通効果は誤差ゼロのサッケードにより消去されることが明らかになった。また、方向の異なるサッケードへの促進効果を解析した結果、適応を担う可塑的変化と、促通を起こす可塑的変化は類似の方向特異性を持つことが示された。サッケード適応を引き起こす誤差信号の経路を調べるために電気刺激で適応が誘発される部位を探索した。その結果、中脳被蓋内側部に刺激を加えるとサッケード直後にその終点が次第に変化すること、効果は刺激と組み合わせたサッケードに特異的であることが明らかになった。視覚誤差を伝える経路が中脳披蓋内側部を通ることが強く示唆された。