著者
岩本 陽児
出版者
和光大学現代人間学部
雑誌
和光大学現代人間学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Human Studies (ISSN:18827292)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.109-128, 2023-03-17

本稿では、主に文献研究の手法により、奈良・平安朝エリートの邸宅という独特の空間に発生し、形を変えながら現在に続く「前栽」(せんざい)、中国に発生した花壇概念と室町期の「花壇」、江戸期の園芸書に見られた「花壇」の実態をまず確認した。次に明治以降を取り上げた。街路樹導入や都市公園建設と並行して、学校の校庭や民家にも花壇が普及した。しかし、街路の緑化は、戦後復興期の都市整備と、戦後創設された社会教育制度が中核的な役割を担った「新生活運動」の一領域である国土を美しくする運動、いわゆる「国土美運動」を待たなくてはならなかった。かくて都市のパブリックスペースに普及した花と緑の景観は、地方行政が新自由主義に転じる中で、新たなマネジメントの段階に入っていった。
著者
岩本 陽児
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.43, pp.1-49, 2020-06-30

小笠原諸島の洋名Boninの由来をたずね、外国人への日本語の聞こえがこの語を生んだとの、いわゆる転訛説を批判的に検討しながら、江戸時代後期における小笠原諸島をめぐっての、日欧の知的な交流のなかでこの名称が誕生した歴史的な過程を検証した。1786年刊の林子平の発禁本『三国通覧図説』をオランダ商館長ティツィングがヨーロッパに招来し、これがフランスの中国学者レミュザにより1817年の論文として紹介された際、「無人」の漢字にBo-ninの綴りが与えられ、添付された仏語訳地図でBO-NINが使用された。ロンドンで1820年に刊行された太平洋海図がレミュザ説からハイフンのないBoninの綴りを採用したことで、現在見るBonin諸島の名称が広く普及した。