著者
苅部 治紀 森 英章 加賀 玲子
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.44, pp.23-41, 2021-06-30

アニジマイナゴは、2011年に小笠原諸島固有属種として記載された種で、父島列島兄島のみから知られている。この種は一般的なイナゴ類と異なり、樹木であるシマイスノキのみを採餌する。本報告では、筆者らの調査でこれまでに明らかになった野生下での生態、生活環について記述する。本種は日中タコノキの葉鞘に潜み、周囲の食樹シマイスノキの間を往来し、タコノキをねぐらのように利用している可能性がある。このような行動は夜間に見られ、夜行性であること、幼虫の孵化と成長の追跡状況から年1化であることが明らかになった。一方、近年のグリーンアノールの兄島における増加で、同種の個体密度が増加した地域では姿を消している。
著者
岩本 陽児
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.43, pp.1-49, 2020-06-30

小笠原諸島の洋名Boninの由来をたずね、外国人への日本語の聞こえがこの語を生んだとの、いわゆる転訛説を批判的に検討しながら、江戸時代後期における小笠原諸島をめぐっての、日欧の知的な交流のなかでこの名称が誕生した歴史的な過程を検証した。1786年刊の林子平の発禁本『三国通覧図説』をオランダ商館長ティツィングがヨーロッパに招来し、これがフランスの中国学者レミュザにより1817年の論文として紹介された際、「無人」の漢字にBo-ninの綴りが与えられ、添付された仏語訳地図でBO-NINが使用された。ロンドンで1820年に刊行された太平洋海図がレミュザ説からハイフンのないBoninの綴りを採用したことで、現在見るBonin諸島の名称が広く普及した。
著者
小西 潤子
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.43, pp.51-70, 2020-06-30

本稿では、父島の「小笠原盆踊り」が1968 年小笠原諸島返還後、いかに形成されいかなる意味を帯びてきたのかを小笠原青年協議会の活動に注目し、1. 萌芽期、2. 返還踊り期、3. ≪小笠原音頭≫の転換期、4. 観光資源化とブランド化の4 つのフェーズから論じた。そして、返還記念祭が村民参加型エンターテインメントとしての性格を強めていったこと、返還10周年以降の記念行事開催時期の限定に伴って踊りの転換が生じたこと、国の施策によって小笠原盆踊りが観光資源化、ブランド化し踊り歌に変化が起こったことなどを明らかにした。さらに、小笠原盆踊りを巡って人々の間に「死者の歓待と鎮送」という原点回帰が起こっていることを論じた。
著者
鳥居 高明 佐竹 潔
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.43, pp.91-101, 2020-06-30

小笠原諸島において淡水性の多毛類や貧毛類相が種レベルで調べられたことはこれまでにない。今回、小笠原村父島字小曲の八ツ瀬川水系の4地点において2012年から2015年までの4年間、断続的に調査を行った。その結果、多毛類2種および広分布種と考えられる貧毛類11種を確認した。長谷橋付近から長谷川下流部までの3地点で確認された貧毛類群集は、本州における平地の浅い富栄養湖の種構成と共通していた。また、この3地点では汎世界的に分布し、特に東南アジアでよくみられるAllonais inaequalis やウチワミミズなどが比較的多く生息していた。このことは、父島の水生多毛類・貧毛類相の特徴の一つと言えるだろう。
著者
上條 明弘
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.44, pp.1-22, 2021-06-30

小笠原諸島は、日本本土と南洋諸島の中間地点に位置する。平坦な土地の多い硫黄島は飛行場の建設に適しており、日本が基地航空隊を配備した。硫黄島は、日本本土からマリアナ諸島などへ航空機を派遣する重要な位置を占めていたゆえに、アメリカ軍により徹底的に攻撃された。硫黄島基地航空隊は期待された機能を発揮できず、マリアナ沖海戦での日本敗北の一因となった。その後、日本軍は硫黄島を経由してサイパンの飛行場などを攻撃したため、硫黄島は米軍の激しい攻撃を受けた。また、B-29の緊急着陸飛行場を確保するため、硫黄島は米軍に占領され、日本本土空襲が激化した。
著者
川上 和人 森 英章
出版者
東京都立大学小笠原研究委員会
雑誌
小笠原研究年報 (ISSN:03879844)
巻号頁・発行日
no.43, pp.121-135, 2020-06-30

小笠原諸島の西之島は太平洋に孤立した無人の海洋島である。この島で2013年から生じた火山の噴火と溶岩の流出による撹乱が自然環境に与えた影響と現在の島の自然の状況を明らかにするため、2019年9月に上陸調査を伴う総合学術調査が実施された。その結果、噴火の影響で島から個体群が消失した生物種が明らかとなるとともに、新たに生じた陸地への生物の拡散の状況が把握された。また、2017年に出現した溶岩の化学特性が明らかになり、地震・空振観測機器の設置により、噴火に伴う変化の遠隔把握が可能となった。今後は長期的なモニタリングにより西之島の自然の持つ価値をより明確にしていくとともに、保護担保措置をとり適切に管理していく必要がある。