著者
岩谷 いずみ 向井 義晴 冨永 貴俊 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 = THE JAPANESE JOURNAL OF CONSERVATIVE DENTISTRY (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.818-825, 2007-12-31
参考文献数
23
被引用文献数
3

一般的に,フッ化物徐放性修復材料は,非徐放性修復材料に比較し歯質周囲の脱灰抑制のみならず,窩洞形成時に取り残した脱灰部位の再石灰化も促すといわれている.しかし,再石灰化が歯面を取り巻く環境によってどのように誘導されるかということは知られていない.この研究の目的は,in vitroにおいて,pHと粧性の異なる口腔の条件をシミュレートした液相でこの物性を評価することである.Baselineを作製するため,ウシ象牙質のシングルセクションを,37℃,pH 5.0の酢酸ゲルシステム中に5日間浸漬した.グラスアイオノマーセメント(GIC)およびコンポジットレジン(CR)をアクリルブロックの人工窩洞内に填塞し,脱灰された象牙質のシングルセクションを材料から1mm離れた溝に挿入した.これらのブロックは,以下の4つの再石灰化環境中に37℃で4週間保管された.Group 1:pH 7.0溶液群(Ca/PO_4:1.5/0.9),Group 2:pH 7.0 2層法群(ゲルとpH 7.0の溶液),Group 3:pH 6.5 2層法群(ゲルとpH 6.5の溶液),Group 4:pH 6.0 2層法群(ゲルとpH6.0の溶液).また,Transversal Microradiographyは再石灰化の前後で撮影し,平均的なミネラル喪失量(ΔZ)の差はΔZaとして算出した.収集したデータは,one-way ANOVA とDuncan's multiple range test を用いて統計学的分析を行った.Group 1:再石灰化はGICとCRともに示したが,ΔZaの有意差は認められなかった.Group 2:再石灰化はGICとCRともに示されたが,CRはGICほど著明ではなかった.Group 3:CR と比較して,GICは"過石灰化"を伴う顕著な再石灰化を示し,ΔZaはCRより有意に高かった(p<0.05).Group 4:ΔZaは両材料とも,脱灰を示すマイナスの値になったが,GICはCRより小さかった(p<0.05).結論として,この研究からpHと粘性のわずかな差は再石灰化に影響すること,また,pH 6.5ゲルすなわち,歯の表面状態のプラーク蓄積によるわずかに酸性状態をシミュレートしたような状態では,代表的なフッ化物徐放性填塞材であるGICは,辺縁の表層下病巣に顕著な再石灰化を誘導することが示された.
著者
岩谷 いずみ 向井 義晴 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-11, 2009-02-28
被引用文献数
7

エナメル質に対して高濃度の過酸化水素水を用いて多数回の漂白処理を施した場合,表層が脱灰されると報告されている.しかし,実際の口腔内においてエナメル質は漂白処理以外の期間は常に唾液に覆われており,漂白による脱灰は唾液中のミネラル成分により修復される可能性も考えられる.本研究では多数回の漂白が与える影響についてウシエナメル質を用いて,漂白処理以外の時間は脱イオン水(DW)に浸漬した(Hw)群と,唾液をシミュレートした再石灰化溶液に浸漬した(Hr)群を設け比較した.漂白には,35%過酸化水素水を主成分とするHiLite(松風)を用い,1週間を1クールとして12クール行った.脱灰様相はTransversal Microradiographyによるミネラル喪失量(IML),および超微小押し込み硬さにより比較した.また,漂白後の再石灰化処理がエナメル質結晶の構成に与える影響について顕微ラマン分光分析を用い,漂白面,および非漂白面の表面および断面10〜300μmにおける炭酸基とリン酸基の変化を測定した.なお,漂白効果の有無は色彩色差計を用いて判定した.Hw群には,エナメル質表面から10μmの位置にミネラル密度が約60vol%の表層下病巣が形成され,12週間再石灰化液に連続して浸漬したコントロール(C)群に比較し,IMLは有意に大きな値であった.Hr群はC群と同様,脱灰,ならびに硬さの低下は示さなかった.各群に耐酸性試験(D)を行ったCD,HwD,およびHrD群すべてに表層下病巣が形成されたが,IMLは全群間で差はなかった.Hr群の表面の顕微ラマン分光分析の結果,漂白面は非漂白面に比較しリン酸基の強度が上昇していた.12クールという多数回の漂白処理においても,口腔内をシミュレートした再石灰化環境に置かれたエナメル質では,漂白により無機質が溶出した後も,周囲環境中の無機質イオンがエナメル質中に取り込まれる可能性が示唆された.また,最表層部では,その後の耐酸性に影響を与えるほどの変化ではないものの,炭酸基が減少し,リン酸基の含有量が多い安定したアパタイトが沈着する再石灰化が生じていることが確認された.