著者
中野 貴文 川村 和章 椎谷 亨 山本 龍生 向井 義晴
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.215-220, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
23

目的:活動性根面齲蝕に類似した象牙質病巣を作製し,ジェルタイプのフッ化物含有知覚過敏治療材の塗布時間の違いによる病巣変化と進行停止効果について,TMR(Transverse microradiography)を用いて検討を行った. 材料と方法:フッ化物含有象牙質知覚過敏治療材として,MSコートHysブロックジェルを使用した.ウシ歯根部象牙質に耐酸性バーニッシュを塗布し,2×3mmの被験面を作製した.実験群はBaseline lesion群,Control群,30s-Tr群,5min-Tr群の4群とした.4群とも脱灰溶液(1.5mM CaCl2,0.9mM KH2PO4,50mM酢酸,0.2ppm F,pH 5.0)を注いで24時間37°Cで基準病巣を作製した後,Baseline lesion群はこの直後にTMR分析を行った.他の3群は各処理を行った後に96時間脱灰を行い,TMR分析を行った.被験面処理方法は,Control群では脱イオン水を30秒間,30 s-Tr群ではHysブロックジェルを30秒間,5min-Tr群ではHysブロックジェルを5分間塗布した.すべての群の試料から薄切片を切り出した後,TMR撮影してミネラルプロファイルから脱灰深度とミネラル喪失量を測定した.統計分析はKruskal-Wallis検定ならびにSteel-Dwassの多重比較検定により,有意水準5%で実施した. 結果:5min-Tr群のミネラルプロファイルはControl群に比較し顕著に高いミネラルvol%を示し,特に表層部は約45vol%であった.各群の病巣深度は,Baseline lesion群で71.5μm,Control群で165.8μm,30 s-Tr群で155.7μm,5min-Tr群で100.1μmであり,ミネラル喪失量は,Baseline lesion群で2,020.0vol%×μm,Control群で4,727.5vol%×μm,30 s-Tr群で3,592.5vol%×μm,5min-Tr群で2,102.5vol%×μmであった.病巣深度およびミネラル喪失量とも,5min-Tr群はControl群および30s-Tr群に比較し有意に小さな値を示した. 結論:表層の再石灰化が乏しい根面脱灰病巣に対し,MSコートHysブロックジェルを規定の塗布時間を超えて5分間処理することにより,効果的な病巣進行停止効果が認められた.
著者
岩谷 いずみ 向井 義晴 冨永 貴俊 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 = THE JAPANESE JOURNAL OF CONSERVATIVE DENTISTRY (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.818-825, 2007-12-31
参考文献数
23
被引用文献数
3

一般的に,フッ化物徐放性修復材料は,非徐放性修復材料に比較し歯質周囲の脱灰抑制のみならず,窩洞形成時に取り残した脱灰部位の再石灰化も促すといわれている.しかし,再石灰化が歯面を取り巻く環境によってどのように誘導されるかということは知られていない.この研究の目的は,in vitroにおいて,pHと粧性の異なる口腔の条件をシミュレートした液相でこの物性を評価することである.Baselineを作製するため,ウシ象牙質のシングルセクションを,37℃,pH 5.0の酢酸ゲルシステム中に5日間浸漬した.グラスアイオノマーセメント(GIC)およびコンポジットレジン(CR)をアクリルブロックの人工窩洞内に填塞し,脱灰された象牙質のシングルセクションを材料から1mm離れた溝に挿入した.これらのブロックは,以下の4つの再石灰化環境中に37℃で4週間保管された.Group 1:pH 7.0溶液群(Ca/PO_4:1.5/0.9),Group 2:pH 7.0 2層法群(ゲルとpH 7.0の溶液),Group 3:pH 6.5 2層法群(ゲルとpH 6.5の溶液),Group 4:pH 6.0 2層法群(ゲルとpH6.0の溶液).また,Transversal Microradiographyは再石灰化の前後で撮影し,平均的なミネラル喪失量(ΔZ)の差はΔZaとして算出した.収集したデータは,one-way ANOVA とDuncan's multiple range test を用いて統計学的分析を行った.Group 1:再石灰化はGICとCRともに示したが,ΔZaの有意差は認められなかった.Group 2:再石灰化はGICとCRともに示されたが,CRはGICほど著明ではなかった.Group 3:CR と比較して,GICは"過石灰化"を伴う顕著な再石灰化を示し,ΔZaはCRより有意に高かった(p<0.05).Group 4:ΔZaは両材料とも,脱灰を示すマイナスの値になったが,GICはCRより小さかった(p<0.05).結論として,この研究からpHと粘性のわずかな差は再石灰化に影響すること,また,pH 6.5ゲルすなわち,歯の表面状態のプラーク蓄積によるわずかに酸性状態をシミュレートしたような状態では,代表的なフッ化物徐放性填塞材であるGICは,辺縁の表層下病巣に顕著な再石灰化を誘導することが示された.
著者
岩谷 いずみ 向井 義晴 寺中 敏夫
出版者
特定非営利活動法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-11, 2009-02-28
被引用文献数
7

エナメル質に対して高濃度の過酸化水素水を用いて多数回の漂白処理を施した場合,表層が脱灰されると報告されている.しかし,実際の口腔内においてエナメル質は漂白処理以外の期間は常に唾液に覆われており,漂白による脱灰は唾液中のミネラル成分により修復される可能性も考えられる.本研究では多数回の漂白が与える影響についてウシエナメル質を用いて,漂白処理以外の時間は脱イオン水(DW)に浸漬した(Hw)群と,唾液をシミュレートした再石灰化溶液に浸漬した(Hr)群を設け比較した.漂白には,35%過酸化水素水を主成分とするHiLite(松風)を用い,1週間を1クールとして12クール行った.脱灰様相はTransversal Microradiographyによるミネラル喪失量(IML),および超微小押し込み硬さにより比較した.また,漂白後の再石灰化処理がエナメル質結晶の構成に与える影響について顕微ラマン分光分析を用い,漂白面,および非漂白面の表面および断面10〜300μmにおける炭酸基とリン酸基の変化を測定した.なお,漂白効果の有無は色彩色差計を用いて判定した.Hw群には,エナメル質表面から10μmの位置にミネラル密度が約60vol%の表層下病巣が形成され,12週間再石灰化液に連続して浸漬したコントロール(C)群に比較し,IMLは有意に大きな値であった.Hr群はC群と同様,脱灰,ならびに硬さの低下は示さなかった.各群に耐酸性試験(D)を行ったCD,HwD,およびHrD群すべてに表層下病巣が形成されたが,IMLは全群間で差はなかった.Hr群の表面の顕微ラマン分光分析の結果,漂白面は非漂白面に比較しリン酸基の強度が上昇していた.12クールという多数回の漂白処理においても,口腔内をシミュレートした再石灰化環境に置かれたエナメル質では,漂白により無機質が溶出した後も,周囲環境中の無機質イオンがエナメル質中に取り込まれる可能性が示唆された.また,最表層部では,その後の耐酸性に影響を与えるほどの変化ではないものの,炭酸基が減少し,リン酸基の含有量が多い安定したアパタイトが沈着する再石灰化が生じていることが確認された.
著者
富山 潔 寺中 敏夫 向井 義晴
出版者
神奈川歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

マイクロコスムバイオフィルムを用いたin vitroモデルが,口腔内を模した,表層下脱灰病巣を誘発できることを確認・報告した.本モデルを用いて作成したバイオフィルムにSPRGフィラー含有歯磨材による処理を行なうことにより,顕著に脱灰を抑制することを報告した.また,渋柿由来の縮合型タンニンを含有させた食品・化粧品等の原料(PancilⓇ PS-M:リリース科学工業株式会社)が,濃度依存的にガラス上で形成したバイオフィルムの生菌数を抑制することを報告した.