著者
奥野 卓司 岸 則政 横井 茂樹 原 以起 奥野 圭太朗
出版者
学校法人 関西学院大学先端社会研究所
雑誌
関西学院大学先端社会研究所紀要 (ISSN:18837042)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.37-54, 2017 (Released:2021-05-15)

人工知能(AI)、自動運転(AD)に関して、政府や自動車産業界の期待は非常に高い。だが、社会科学の分野では、それらの期待は技術決定論、ハイプサイクル、監視社会化にあたるとして、むしろ批判的な言説が多い。一方で、近年、社会学の分野で、アーリの『モビリティーズ──移動の社会学』、エリオットとの共著『モバイル・ライブス』など、現代社会のモビリティに生じている変容に着目して、新たなパラダイムで解読しようする流れが起こっている。本稿は、このパラダイム転換の流れのなかで、先端技術の工学的最前線と社会科学の研究者との共同研究によって、近未来に人間のモビリティがどのように変容し、いかなる社会的課題が生じつつあるのか、考察した。「移動-不動」×「機能性-遊戯性」の2 軸で構成した図で、情報技術の進歩により「移動×機能性」に属する事項が急減し、「不動」領域が拡大していることが実証された。これにより、人工知能、自動運転が進めば進むほど、自動車の必要な作業はロジスティックス(物流)の領域に限定されていくことが判明する。近未来に、人間の移動欲求を解発するには、移動の体感拡張、個人対応の観光情報の移動中での提示、歴史文化・サブカルチャーへの個人対応接触、人間関係の紐帯変化に適応したクルマと社会システムが必要であることを明らかにした。ここから、自動運転小型ビークルによるワイナリー・酒蔵巡り、個人履歴のビッグデータによる文化観光リコメンドシステム、AI による不自由度の低いシェアライドなどの可能性を、技術と社会の両面から検討し、提案した。