著者
森山 倭成 岸本 秀樹 木戸 康人
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.35-61, 2022 (Released:2022-05-20)
参考文献数
46

肥筑方言における主語は,生起する環境が主節か埋め込み節かにかかわらず,ガ格の代わりにノ格で標示させることが可能である。先行研究では,肥筑方言のノ格主語が,ガ格主語とは異なり,主語移動(A-移動)を起こさず,vP内に留まると主張されてきた。しかし,本論では,肥筑方言のノ格主語は,vP内に留まるのではなく,TPとvPの間に挟まれたAsp(ect)Pの指定部位置へ主語移動を起こすことを論じる。このことを示すために,まず,未確定代名詞束縛とサー感嘆文に関する言語事実から,ガ格主語はTP指定部位置に移動する一方で,ノ格主語はガ格主語よりも低い構造位置で認可されることを示す。次に,vP分裂文に関するデータから,ノ格主語が主語移動を受けてvP指定部よりも高い位置に移動することを示す。特に,vP分裂文のデータはノ格主語が動詞句内に留まることができないことを示す強い経験的な証拠を提供する。
著者
岸本 秀樹
出版者
The Linguistic Society of Japan
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.153, pp.5-39, 2018 (Released:2018-12-29)
参考文献数
64
被引用文献数
2

本稿では,文の否定辞のスコープの拡がり方を観察することにより,日本語において,主要部移動と名詞句移動の存在を確認することができることを論じる。日本語の否定辞は主要部移動を起こす要素で,移動が起こるかどうかによって,そのスコープの拡がり方が異なる。否定のスコープ内でのみ認可される否定極性表現の振る舞いから,日本語では,形容詞から脱範疇化により文法要素となった否定辞は主要部移動を起こし,形容詞の範疇的性質を残す否定辞は移動を起こさないこと,および,日本語の主語は,時制辞が主格の項を認可する場合に,文の主語位置への移動を起こすことを示す。また,「なる」に節が埋め込まれた複文では,主語の移動が起こった場合に,主節の主語位置に移動する構文と主語が埋め込み節内でのみ移動する構文があることも示す。