著者
森山 倭成 岸本 秀樹 木戸 康人
出版者
日本言語学会
雑誌
言語研究 (ISSN:00243914)
巻号頁・発行日
vol.161, pp.35-61, 2022 (Released:2022-05-20)
参考文献数
46

肥筑方言における主語は,生起する環境が主節か埋め込み節かにかかわらず,ガ格の代わりにノ格で標示させることが可能である。先行研究では,肥筑方言のノ格主語が,ガ格主語とは異なり,主語移動(A-移動)を起こさず,vP内に留まると主張されてきた。しかし,本論では,肥筑方言のノ格主語は,vP内に留まるのではなく,TPとvPの間に挟まれたAsp(ect)Pの指定部位置へ主語移動を起こすことを論じる。このことを示すために,まず,未確定代名詞束縛とサー感嘆文に関する言語事実から,ガ格主語はTP指定部位置に移動する一方で,ノ格主語はガ格主語よりも低い構造位置で認可されることを示す。次に,vP分裂文に関するデータから,ノ格主語が主語移動を受けてvP指定部よりも高い位置に移動することを示す。特に,vP分裂文のデータはノ格主語が動詞句内に留まることができないことを示す強い経験的な証拠を提供する。
著者
木戸 康人
出版者
言語科学会
雑誌
Studies in Language Sciences (ISSN:24359955)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.43-67, 2022-09-01 (Released:2022-09-01)
参考文献数
41

本稿では、なぜ成人が促音を含む複合動詞を月齢が低い幼児に対して使う傾向が観察されるのか、また、なぜ幼児が最初に発話する複合動詞には促音が含まれているのか、という2つの問いを明らかにすることを目的としている。それらの問いを明らかにするために、CHILDESデータベース(MacWhinney, 2000)を用いて分析を行った。その結果、幼児の月齢が低ければ低いほど、成人は前部要素に特殊拍を含むという幼児語の音韻的な特徴を有した複合動詞を使っていたこと、また、日本語を獲得中の幼児が複合動詞を獲得するとき、幼児が最初に発話する複合動詞は前項動詞に促音を含んだものという共通点があったことを報告する。本稿は、主に2つの理論的示唆を与えている。第一に、幼児語の音韻的な特徴が語彙獲得を促進させていることを複合動詞の獲得の観点から示した点である。第二に、Berman(2009)によって示されたヘブライ語の複合名詞の獲得における特徴とChen(2008)によって示された中国語の複合動詞の獲得における特徴が日本語の複合動詞の獲得にも当てはまることを示した点である。