著者
島崎 研一郎 徳富 哲 長谷 あきら
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本特定領域研究では、フォトトロピンやLOV光受容体を研究対象にする生物物理学者、細胞生物学者、植物生理学者など第1線の研究者を一同に会して、光情報受容から様々な生理応答反応へ至る過程を、システマティックに研究してその全体像解明に迫り、この研究分野で世界をリードする事を目的とした。おもに、以下の結果が得られた。1)LOV1ドメインなどの一部の結晶構造を解き、分子全体構造に関しても重要な知見を得た。LOVドメインの光反応はほぼ解明した。さらに、キナーゼの光活性化機構の概略を明らかにした。2)各生理学的応答反応過程に関して、葉緑体光定位運動では、光によるアクチン繊維の再構築が原動力を与え、それに関与する因子が同定されるなど研究の大きな進展が得られた。気孔開口に関しては、photから開口に直接関与する細胞膜H^+-ATPaseへ至る経路の概略が明らかにされた。この研究過程で、アブシジン酸を介した気孔閉口シグナル伝達系とのクロストークが明らかになった。上記光応答反応以外にphotは、葉の太陽追尾運動、葉定位運動、マメ科植物における葉の光誘導性運動、柵状組織の形成、核の運動反応などの光受容体として機能することを発見した。3)新規LOV光受容体オーレオクロムを見つけ、その機能を解析した。以上の成果はPub Medのphototropinをキーワードにした文献検索によれば、2005年初頭より2010年7月までに全世界で総計185報の論文が発表され、この中で本特定領域研究の著者に含まれる論文は61報と、実に3分の1を占めた。班会議を開催し、これまでの成果をまとめた。この5年間の代表的論文を各研究代表者5編以内に限り、冊子体中にまとめた。
著者
高橋 洋平 井上 晋一郎 島崎 研一郎
出版者
植物化学調節学会
雑誌
植物の生長調節 (ISSN:13465406)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.135-143, 2008-12-19

気孔は一対の孔辺細胞から構成され,光によって開口し植物ホルモン(アブシシン酸,ジャスモン酸など)によって閉鎖し,植物と大気間のガス交換を調節している.孔辺細胞はシグナルとして作用する青色光をフォトトロピンを介して受容し,化学情報への変換,細胞膜H^+-ATPaseの活性化,内向き整流性K^+チャネルによるK^+の取り込み等の過程を経て気孔開口を引き起こす.一方,孔辺細胞はアブシシン酸や二酸化炭素を受容し,多くの情報伝達体からなるネットワークを通して,細胞膜陰イオンチャネルを介したイオンの遊離によって気孔閉鎖を誘発する.気孔の開口および閉鎖に関与する情報伝達因子,それらを制御する蛋白質リン酸化反応,さらに,独立した経路と考えられた気孔開口と閉鎖の両経路間のクロストークの解明が進んでいる.