著者
安達 侑夏 橋本 由美 川口 源水 佐藤 卓也 今村 徹
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.126-134, 2017-06-25 (Released:2017-07-04)
参考文献数
20

アルツハイマー病(AD)患者のRey複雑図形(ROCF)模写の順序を質的に分析し,不適切な方略と反応抑制障害との関係を検討した.対象はADAS,Frontal Assessment Battery(FAB),ROCF模写課題を施行し,ADAS構成課題で減点のないAD患者40例.ROCFに計20のまとまり(要素)を定義し,患者を以下の4群に分類した.A群:ROCFの輪郭の長方形(骨格要素A)から模写を開始してそれを完成させた26例.B群:骨格要素Aの一部から模写を開始したが,その完成前に他の要素の模写を開始して完成させた3例.C群:骨格要素A以外の要素から模写を開始して完成させた10例.D群:どの要素も完成させないまま模写を続けた1例.B+C群を方略として不適切なまとまりに引きずられた患者とみなし,A群との間で患者属性,疾患属性,認知機能属性を比較検討すると,B+C群ではA群よりもFABのGo-no go課題の成績が有意に低かった.構成障害の要因を統制したAD群において,計画的で合理的な順序でROCFを模写しなかった患者のほとんどは,不適切なまとまりに引きずられて模写を開始したC群と,適切なまとまりから模写を開始しても,それが完成しないうちに別のまとまりに引きずられたB群であり,反応抑制課題の成績が低下していた.反応抑制障害によって方略として不適切なまとまりが抑制されず,効率的な模写のための方略が低下するという仮説を支持された.