著者
西田 香利 山本 理恵 仲村 美幸 齋藤 誠司 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.205-211, 2011-06-30 (Released:2012-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
1 2

発症最初期にみられた anarthria による不規則な構音の歪みや置換の改善とともに,運動障害性構音障害や他の失語症状を伴わない純粋な foreign accent syndrome (FAS) を呈し,その後症状がほぼ消失した症例を報告した。症例は 47 歳,矯正右利きで,中枢性右顔面麻痺を伴う右片麻痺と呂律困難で発症した。頭部 MRI では中心前回中・下部を含む左前頭葉に梗塞を認めた。発症 5 日時点で見られた発話における音の不規則な歪み,置換や語頭音の繰り返しは発症 2 週後までに軽減,消失し,その一方で,自発話や単語,短文の音読,復唱時に prosody 障害が目立つようになった。すなわち,単語内のアクセントの移動や 1 単語における 2 単位のアクセントなどが頻発し,発話速度の増加もみられた。これらの特徴は患者の発話の聞き手に外国人様という印象を抱かせた。この prosody 障害は発症 7 ヵ月までに軽減,消失した。本症例の prosody 障害は,anarthria に随伴する prosody の平板化と発話速度の減少を主体とするタイプとも,右半球損傷でみられる感情表現の prosody 障害を主体とするタイプとも異なっており,平板化とは逆方向の prosody 障害や,発話速度の性急さなどの特徴から FAS と考えられた。
著者
剣持 龍介 小林 知世 山岸 敬 佐藤 卓也 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.236-244, 2013-06-30 (Released:2014-07-02)
参考文献数
20
被引用文献数
3 1

【目的】 Rey-Osterrieth Complex Figure Test (ROCF) の模写課題における認知症患者の遂行機能障害を評価する簡易な尺度を作成し, 妥当性を検討する。【対象】 新潟リハビリテーション病院神経内科を初診し, 数唱, MMSE, Alzheimer's Disease Assessment Scale(ADAS), Frontal Assessment Battery (FAB)および ROCF の模写課題を施行した認知症患者で MMSE 得点が15 点以上かつ25 点以下の97 症例。【方法】 評価項目は, 計画的で効率的な模写遂行のために適切な順序で模写されているか否か(模写時方略)を評価する 2 項目と, 体系的な模写遂行のために重要な ROCF の部位がまとまった形態として抽出されひと続きで模写されているか否か(骨格要素の抽出)を評価する 5 項目の計7 項目とした。評価項目ごとに得点あり/なしを従属変数とし, MMSE 得点および教育年数を共変量, 年齢, ADAS 下位項目のうちの単語再生, 構成, 観念行為, 見当識, 単語再認の減点, FAB 得点いずれかを独立変数とする logistic 回帰分析を施行した。【結果】 教育年数と認知機能の全体重症度の影響を除外した logistic 重回帰分析において, 評価項目のうちの(1)模写時方略のa)大きな長方形の描き方, b)大きな長方形内部の描き方, (2)骨格要素の抽出のa)大きな長方形, b)大きな長方形内の2 つの対角線, d)大きな長方形内の水平な中央線の 5 項目でFAB 得点との間に有意な関係また有意ではないものの関係する傾向が認められた。これら5 項目の合計得点を従属変数とし, 教育年数と認知機能の全体重症度の影響を除外した重回帰分析においても, FAB 得点に有意な偏回帰係数が得られた。【結論】 本研究では, 評価項目の多くと遂行機能障害との関係が確認され, 尺度として一定の妥当性が示唆された。これらの評価項目を用いた尺度は, 認知症患者の ROCF 模写課題における遂行機能障害を評価する簡便な評価方法であり, 物忘れ外来などの日常的な臨床場面での使用に一定の有用性を有すると考えられた。
著者
安達 侑夏 橋本 由美 川口 源水 佐藤 卓也 今村 徹
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.126-134, 2017-06-25 (Released:2017-07-04)
参考文献数
20

アルツハイマー病(AD)患者のRey複雑図形(ROCF)模写の順序を質的に分析し,不適切な方略と反応抑制障害との関係を検討した.対象はADAS,Frontal Assessment Battery(FAB),ROCF模写課題を施行し,ADAS構成課題で減点のないAD患者40例.ROCFに計20のまとまり(要素)を定義し,患者を以下の4群に分類した.A群:ROCFの輪郭の長方形(骨格要素A)から模写を開始してそれを完成させた26例.B群:骨格要素Aの一部から模写を開始したが,その完成前に他の要素の模写を開始して完成させた3例.C群:骨格要素A以外の要素から模写を開始して完成させた10例.D群:どの要素も完成させないまま模写を続けた1例.B+C群を方略として不適切なまとまりに引きずられた患者とみなし,A群との間で患者属性,疾患属性,認知機能属性を比較検討すると,B+C群ではA群よりもFABのGo-no go課題の成績が有意に低かった.構成障害の要因を統制したAD群において,計画的で合理的な順序でROCFを模写しなかった患者のほとんどは,不適切なまとまりに引きずられて模写を開始したC群と,適切なまとまりから模写を開始しても,それが完成しないうちに別のまとまりに引きずられたB群であり,反応抑制課題の成績が低下していた.反応抑制障害によって方略として不適切なまとまりが抑制されず,効率的な模写のための方略が低下するという仮説を支持された.
著者
工藤 由理 中野 あずさ 佐藤 厚 今村 徹 佐藤 豊
出版者
社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
リハビリテーション医学 (ISSN:0034351X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.7, pp.463-468, 2005 (Released:2006-09-22)
参考文献数
12
被引用文献数
5 6

Recent authors reported a cerebellar contribution to cognitive functions such as executive function, personality, spatial cognition, language and memory. Middleton and Strick showed the neuroanatomical projection from the dentate nucleus to dorsolateral prefrontal cortex. Patients with cerebellar diseases were reported to have cognitive impairment in their neuropsychological assessments. The present patient with cerebellar hemorrhage showed disorder of executive function and memory disorder in his neuropsy-chological assessments. In his daily living, we found him to exhibit a distractible affection and disinhibition, which often disrupted the rehabilitation processes. A brain MRI showed no lesions in the bilateral frontal areas but SPECT showed a lower blood flow there. To approach these cases, we should recognize the existence of impaired higher brain function, and not only be mindful of motor deficits.
著者
北村 葉子 今村 徹 笠井 明美 岩橋 麻希
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.510-522, 2010-12-31 (Released:2012-01-05)
参考文献数
26

BPSD の評価として専門職が行う構造化インタビューにはさまざまなものがある。しかし直接観察法では確立されたものはない。妄想,幻覚など個別の BPSD ごとに下位項目を含んだ施設職員用の直接観察式評価法があれば,臨床上の有用性は高いと考えられる。認知症利用者を直接観察するさまざまな職種が BPSD を適切に評価できる手段を確立することを目的として,8 つの主項目と,その下位項目からなる質問紙 BPSD-AS の試案を作成し,信頼性と妥当性を検証した。BPSD-AS は,NPI などの既存の評価法の項目を参考とし,認知症を専門とする行動神経内科医 (behavioral neurologist),PT,OT,ST 各 1 名の意見を元に試案を作成し内容妥当性を確保した。デイサービスセンターを利用した在宅療養中の認知症利用者 31 名を対象に,デイサービスセンターの介護職 5 名,医療福祉職 5 名の 2 群,合計 10 名の評価者で直接観察を行った。検査者間信頼性については多くの項目で重症度,負担度ともに級内相関係数 ri=0.6 から 0.7 であった。妥当性についても多くの項目で有意な相関が得られ,BPSD-AS は一定の信頼性と妥当性を有していることが示された。
著者
本田 智子 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.237-242, 2019-06-30 (Released:2020-07-06)
参考文献数
23

症例は 57 歳, 右利き男性。兄には左利きの矯正歴がみられた。右頭頂後頭葉皮質下出血発症 4 週時点で左半側空間無視, 構成障害, 着衣失行を認めた。音声言語の理解, 表出および読字には問題なかったが, 漢字書字に障害がみられ, 無反応, 部分反応, 存在字近似反応などの純粋失書と思われる反応に加えて, 文字の構成要素はすべて書き出されているが空間配置が乱れた構成失書がみられた。小学校 1, 2, 3 年生の教育漢字から無作為に選択した 51 文字の書取と写字では, 純粋失書は写字で著明に減少したが, 構成失書は書取と写字で同程度の割合でみられ, 偏と旁など, 部首と部首との空間配置が乱れる場合と, 1 つの部首を構成する字画の主要なまとまり同士の空間配置が乱れる場合とがあった。近年, 右半球損傷による構成失書の症例がいくつか報告されている。構成失書は従来指摘されてきた左頭頂葉病変以外にも, 非定型側性化を背景に有する右半球病変で出現する可能性がある。
著者
安達 侑夏 笠井 明美 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.255-259, 2018-06-30 (Released:2019-07-01)
参考文献数
8

症例は 80 歳, 女性, 右利き。左前頭葉の脳内出血発症 60 日で当施設転入居。四肢に粗大な運動麻痺なし。自発話は乏しく, 話し掛けられると単語~短文レベルで発話がみられることがある程度。問いかけへの肯定 / 否定の意思表示は曖昧だが, 表情や行動, 態度から非言語的な状況理解は基本的に悪くないと思われた。施設内での生活場面で, 窓の鍵やドアが見えると開けようとするといった使用行動がみられた。さらに, 複数の職員がテーブルを囲んでミーティングをしていると, 近づいてきて職員の隣の椅子に座り, ミーティングの参加者のようにうなずきながら話を聞いたり, 机上の資料を手に取ったりする, など, 施設に勤務する職員であるかのように行動する場面が散発した。これは施設の環境が刺激となって出現した, Lhermitte の原著に忠実な環境依存症候群であると考えられた。
著者
村田 翔太郎 若田 浩志 村川 孝次 今井 奨 庄田 健二 今村 徹
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.28-35, 2019-03-31 (Released:2020-04-03)
参考文献数
15

拡大鏡を使用して音読することで仮名非語音読課題の成績が向上し, 文章一般も読みやすいと実感できた音韻失読 2 例を報告し, 仮名非語音読障害の機序および拡大鏡を使用して音読する介入効果について考察した。通常の音読と拡大鏡を使用した仮名非語音読課題の成績を比較した結果, 2 例ともに拡大鏡を使用して音読することで成績が有意に向上した。この結果が得られた機序として, 拡大鏡を使用して音読することで 1 文字ずつ拾い上げながら読もうとする心的構えが生じ, その効果によって, 2 例に存在する音韻表象の脆弱化, 系列化処理やモニタリング機能の障害をある程度代償し, 仮名非語音読における読み誤りを減らすことができたと考えられた。音韻失読例が拡大鏡を使用して音読することにより, 仮名非語のみではなく膠着語である日本語の文章一般の読み誤りも減らす効果が期待できると考えられた。
著者
大石 如香 今村 徹 丸田 忠雄 鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.476-483, 2016-12-31 (Released:2018-01-05)
参考文献数
23

左被殻出血後に慢性期まで記号素性錯語を呈した流暢性失語例において, 記号素性錯語の特徴について検討した。症例は 64 歳右利き女性で, 意識障害はなく, 非言語的な認知機能は保たれていた。自発話や呼称において豊富な錯語を示し, 特に呼称における記号素性錯語が特徴的だった。記号素性錯語は発症 1 年後にも認められ, 保続型と非保続型に分類できた。保続型はすでに表出された記号素やその意味的関連語を含む記号素性錯語で, 目標語を含まないものが多かった。一方, 非保続型は目標語や目標語の意味的関連語を含む記号素性錯語が多かった。経時的には保続型記号素性錯語が徐々に減少していく傾向があった。本例にみられた記号素性錯語は, 意味や運動など種々のレベルでの保続や, 目標語に関連して活性化された語の抑制障害など多様な機序により生じていることが示唆された。記号素性錯語の出現には左基底核損傷が関与している可能性があると考えられた。
著者
渡部 宏幸 平山 和美 古木 ひとみ 貝梅 由恵 濱田 哲 原 寛美 山尾 涼子 今村 徹
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.35-43, 2017-03-25 (Released:2017-05-09)
参考文献数
11

左側頭葉後下部の皮質下出血後に,抽象的態度の障害を呈した症例を報告した.症例は69歳,右利き女性.回復期に,以下の所見がみられた.(1)性質の似た色の聴覚指示および分類,色の呼称の障害.(2)実際の家具の聴覚指示において,対象の個別性にこだわった反応.両者はGoldstein(1948)およびYamadoriら(1973)が報告した抽象的態度の障害と類似しており,本症例にも既報告例と共通の障害が存在すると考えられた.
著者
小熊 芳実 佐藤 卓也 佐藤 厚 今村 徹
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.248-259, 2016-09-25 (Released:2016-11-04)
参考文献数
24

【背景】疫学研究によって,頭部外傷はアルツハイマー病(AD)の危険因子であることが示されてきたが,頭部外傷の既往を有する進行性の認知症高齢者の臨床像はADとして非典型的である場合が少なくない.【目的】頭部外傷の既往と緩徐進行性の認知機能障害を有する患者の臨床的特徴を検討する.【対象】認知症専門外来で精査を完了した787症例の臨床データベースから,以下の条件をすべて満たす6症例を抽出した.①重大な外傷の既往が特定されている,②その際に頭部外傷があったことを示す所見または診断がある,③頭部外傷後,周囲が認知機能や精神・人格に関する後遺症に気づいていない,④頭部外傷後,家庭生活や職業における役割が保たれている,⑤頭部外傷よりも明らかに後に緩徐に発症し進行する認知機能障害が存在する,⑥頭部画像検査上での陳旧性の外傷性病変がみられる.【方法】6症例の認知機能障害と行動心理学的症候について診療録を元に回顧的に分析した.【結果】6症例中3症例で脱抑制,感情・情動の変化や常同行動などが見られ,前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断基準の中核的診断基準と支持的診断的特徴に一致する項目が多かった.しかし,近時記憶障害で発症し,構成障害や道順障害もみられており,原因疾患はADであると考えられた.他の3症例は高齢発症型のADの臨床像であった.【結果】頭部外傷の好発部位は前頭葉底面と側頭葉の前方から外側底面であるので,頭部外傷による脳予備能の減少はこれらの部位でより強いと考えられる.頭部外傷によって前頭葉症状の責任病巣となる部位の脳予備能が減少し,その後に発症したADの比較的初期から,近時記憶障害とともにFTD様の前頭葉症状が出現した可能性が考えられる.