著者
川島 浩平
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 = The Zinbun Gakuhō : Journal of Humanities (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.77-112, 2011-03

「黒人は固有の運動能力を有する」という意味での「黒人身体能力神話」を研究の対象とするにあたって,次の二つの立場を措定することがで、きる。第一は,「神話」の浸透を国際的な広がりをもつ現象として捉え,その起源と形成・普及の過程をグローパルな視点から解明しようとする立場である。第二は,「神話」の浸透におけるすぐれて日本的な状況に注目する立場である。ここで問われるべきは,「神話」の歴史性や時代的文脈におけるその性質であると同時に,否それ以上に,「量的」あるいは「比率的」な展開のありかたである。すなわち,グローパルな水準に照らし,「なぜ日本において,かくも無批判に『神話』が受容されるのか」である。本論は第二の立場に立ち,「神話」の日本における受容の過程を,「人種」/「黒人」という言葉・概念との遭遇とその習得を中心に解明することを目的とする。具体的な構成は以下の通りである。まず第一節にて,「黒人」,「身体能力」,「神話」などの主要概念に定義を与え,文献調査や意識調査の結果を紹介し,日米間の神話に対する意識や態度の差異の度合を明らかにする。第二節では,研究調査の方法論を詳述する。特に,アンケートと聞き取りの結果に基づいて設定した神話受容の過程を解明するために検討すべき4つの経験領域(1 実際の「黒人」との遭遇,2. 「人種」や「黒人」という言葉・概念との遭遇とその習得,3. これらの言葉・概念の公的教育カリキュラムによる学習. 4. 「神話」を支持するに至った契機と体験)の説明に力点を置く。第三節では,第一の経験領域に関してすでに発表した主要な分析結果を報告し,第四節では,第二の経験領域に関して具体的な分析を行う。最後にこの分析に続く作業を展望し,本研究調査の意義を指摘する。
著者
川島 浩平
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
no.16, pp.5-20, 2008

ジョン・ホバマン著『ダーウィンズ・アスリーツ』が1997年に出版され、アメリカ合衆国の言論界で人種とスポーツをめぐる論争を引き起こしてから、はや10年が経過した。本書は、学術誌や一般誌の書評欄で取り上げられたり、テレビやラジオの番組で紹介されたりして、様々な階層の人々の注意を喚起し、少なからぬ賛同者を得た。しかし学界では、厳しい批判にもさらされた。本論では、本書の意義を考察し、批判に反論するかたちでの再評価を試みたい。第一節は、ホバマンの主張を、特にアメリカ社会で強い反響を呼んだものに焦点を絞りつつ振り返る。第二節は、本書に対する批判の内容を明らかにする。国外、そして国内のアフリカ系、非アフリカ系研究者など、学界の各方面から提起された批判のうち、ジェフリー・サモンズ、ベン・キャリントン/イアン・マクドナルド、ダグラス・ハートマンによるものを紹介する。第三節は、出版後の10年間におけるアメリカスポーツをめぐる動向のうち、人種・エスニシティ的な観点からみて注目すべきものを拾い上げて解説する。ハリー・エドワーズによる黒人スポーツの「黄金時代」が終焉を迎えるかもしれないという危機の予告、ステレオタイプを超越するかに見えるアメリカスポーツ界の動向、『プライド』、『グローリー・ロード』、『コーチ・カーター』などハリウッド映画における黒人アスリート表象、NBA (全米バスケットボール協会) による『ワン・アンド・ダン』改革などへの言及がなされる。以上の作業に基づいて、最後に本書に対する再評価を試みる。『ダーウィンズ・アスリーツ』に特徴的な因果関係を双方向的に捉える視点は、時宜にかなった、きわめて正確かつ適切なものとみるべきである。この点だけに鑑みても、本書が、人種社会アメリカにおけるスポーツの現在と未来を考察するための、確かな基盤を提供するものであることは明らかである。
著者
川島 浩平
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文学報 (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
no.100, pp.77-112, 2011

「黒人は固有の運動能力を有する」という意味での「黒人身体能力神話」を研究の対象とするにあたって,次の二つの立場を措定することがで、きる。第一は,「神話」の浸透を国際的な広がりをもつ現象として捉え,その起源と形成・普及の過程をグローパルな視点から解明しようとする立場である。第二は,「神話」の浸透におけるすぐれて日本的な状況に注目する立場である。ここで問われるべきは,「神話」の歴史性や時代的文脈におけるその性質であると同時に,否それ以上に,「量的」あるいは「比率的」な展開のありかたである。すなわち,グローパルな水準に照らし,「なぜ日本において,かくも無批判に『神話』が受容されるのか」である。本論は第二の立場に立ち,「神話」の日本における受容の過程を,「人種」/「黒人」という言葉・概念との遭遇とその習得を中心に解明することを目的とする。具体的な構成は以下の通りである。まず第一節にて,「黒人」,「身体能力」,「神話」などの主要概念に定義を与え,文献調査や意識調査の結果を紹介し,日米間の神話に対する意識や態度の差異の度合を明らかにする。第二節では,研究調査の方法論を詳述する。特に,アンケートと聞き取りの結果に基づいて設定した神話受容の過程を解明するために検討すべき4つの経験領域(1 実際の「黒人」との遭遇,2. 「人種」や「黒人」という言葉・概念との遭遇とその習得,3. これらの言葉・概念の公的教育カリキュラムによる学習. 4. 「神話」を支持するに至った契機と体験)の説明に力点を置く。第三節では,第一の経験領域に関してすでに発表した主要な分析結果を報告し,第四節では,第二の経験領域に関して具体的な分析を行う。最後にこの分析に続く作業を展望し,本研究調査の意義を指摘する。