著者
安田 一郎 日比谷 紀之 大島 慶一郎 川崎 康寛 渡辺 豊
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

H19年度においては、昨年度に引き続きロシア船を傭船し、約1週間(2007年8月下旬から9月上旬)にわたり千島列島海域の乱流計を用いた乱流直接観測を行うことができた。本年度観測では、昨年度機器の故障により十分な深さまで観測ができなかったブッソル海況西水道において1日連続観測を行うことができた。また、深い混合が予想されたブッソル海況東水道の1点、昨年度オホーツク海側で実施したウルップ海況太平洋側の3点、及び、ムシル海況4点で1日連続観測を行ったほか、重要な観測点で乱流・CTD観測を行うことができた。これらの観測により、千島列島海域には、一般的な中深層での乱流強度の約1万倍にも及ぶ1000cm2/secを越える鉛直拡散が起きていることが実証された。一方、1日の中でも潮汐流に応じて乱流強度は大きく変化すること、また、場所ごとに大きく変化することが明らかとなった。今後、さらに観測を行うとともに、長期観測データやモデルなどを用いてこの海域全体の寄与を明らかにしてゆく必要があることもわかった。また、これら乱流の直接観測データとCTDで取得された密度の鉛直方向の逆転から得られた間接的に乱流強度を比較した結果、乱流強度1桁の誤差範囲で間接的に乱流強度を見積もることができる手法を開発することができた。さらに、木の年輪から得られた長期気候指標北太平洋10年振動指数PDOに有意な18.6年潮汐振動周期を見出し、潮汐振動と気候との位相関係を明らかにした。これにより、日周潮汐の強い時期に、赤道域ではラニーニャ傾向、日本東方海域では高温、アリューシャン低気圧は弱い傾向になることがあきらかとなった。また、千島列島付近の日周潮汐が強い時期に表層の層厚が薄くなり、それが日本南岸まで伝搬することに関連して、本州南岸沿岸海域の栄養塩が上昇する傾向があることが明らかとなった。このように、千島列島付近および亜寒帯海域の潮汐混合は、広く北太平洋に大きな影響を与えていることが示唆された。