著者
川平 浩二 岩坂 泰信
出版者
富山工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

オゾンホ-ルと温室効果の相互関連について、主としてデ-タ解析により研究を行ない,以下のような研究成果が得られた。南極域の春,10月を中心に生じるオゾンの急激な減少であるオゾンホ-ルは,1980頃に顕著になって以来年々減少し,1991年には史上最低値のオゾン量ガ観測されている。この減少の直接的要因は,フロンガスに含まれた塩素が,ー85・C以下の気温のとき生じる極成層圏雲の氷滴の表面上で不均一反応によって急激に増加し,オゾン消失反応の触媒作用を行なうことによる。したがって,オゾンホ-ルが何故1980年頃から顕著になり,今後どのように推移していくかを考えるとき,気温の長期変化がどうなっているか,それと合わせて大気の循環にどのような変化が見られるかを明らかにすることが必要である。本研究では,米国の国立気象センタ-(National Meteorological Center)が解析した,1979年から1988年の10年間の高度場より,気温と風を求めて解析を行なった。月平均値に関して,以下の点が明らかになった。1.オゾンの急激な減少の生じる高度(10ー20km)で,極夜期間に長期の1方的な気温低下がみられることから,温室効果による成層圏の冷却と考えた。この傾向は,10年間にわたり,かつ極夜期間はオゾンによる加熱が働かないため、気温低下は力学効果か温室効果によるが、力学効果は2ー5年の周期をもつことから,温室効果による。2.月平均の帯状風の1980年代の変化を求めた。意外なことに,オゾンホ-ルの発達と対応がみられなかった。年々振動はあるが、長期の一方的変化は,見いだせなかった。ところが,1970年代年期初期との比較を行なうと,冬から春にかけてのどの月についても,極域では近年風が弱まり,一方60・S付近の中緯度では逆に,風が強くなっている。さらに,大規模波動の振幅を比較すると,近年は著しく弱くなっている。このことは,オゾンホ-ルの発達を促す循環の変化が,1970年代の半ばごろに確立し,現在まで続いているという,新しい知見をもたらした。その他の解析と合わすと,温室効果に伴う循環奉の変化が起こっており,しかもその変様相は,徐々にではなく,ある期間に比較的急激に起こったといえる。この結果から,オゾンホ-ルの発達は,温度効果による成層圏の気温 低下と循環の変化が先行して生じ,その発達の基本条件を作ったとの,1987年に提起した筆者の独自見解を支持するものといえる。特に,温室効果による循環の変化は,この研究が初めて明らかにしたといえる。
著者
光田 寧 藤井 健 川平 浩二
出版者
京都大学防災研究所
雑誌
京都大学防災研究所年報 (ISSN:0386412X)
巻号頁・発行日
no.17, pp.p227-234, 1974-04
被引用文献数
1