著者
渡瀬 典子 長澤 由喜子 菊地 尚子 川越 浩子 羽澤 美紀
出版者
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター
雑誌
岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要 = The journal of Clinical Research Center for Child Development and Educational Practices (ISSN:13472216)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.1-8, 2010-02

2005(平成17)年に成立した「食育基本法」では、食育を「様々な経験を通じて『食』に関する知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」ものとし、国民運動として推進することが明記されている。また、同法の第5,11,20条等では、学校が家庭、地域の諸機関とともに、子どもへの「食育」を推進する役割・責務を負うことが述べられている。学校教育における“食育”は、その呼称は異なるものの、食生活改善をはじめとする様々な実践が積み上げられてきた。その中で、「りんごの皮が適切にむける(注1)児童は28.6%」(文部省 1984)等の基本的な生活技術の定着に関わる課題が高度経済成長期以降、顕著に指摘されるようになった。同じ時期に、東北地区の家庭科教育学会では、家庭科教育において「生活の機械化や社会化をどう受け止めるか」、「子どもの心身発達を支えるための生活技術教育をどう捉えるか」を課題とし(壁谷沢 1985)、1985(昭和60)年に児童・生徒の食生活領域を含む「家庭生活技術の実技調査」が実施された(以後、「 年調査」と記述)。この中で用いられる「生活技術」という用語について、本研究では、「人間が日常生活を主体的に営むために生活環境に働きかける方法、手段であり、総合生活技術、情報による技術、家族関係を調整する技術、精神的な技術など、無形なもの、意思決定にかかわる領域も含む広範なもの」(中間 1987)と捉える。 この「生活技術」について1985年調査当時の『小学校学習指導要領家庭編(1977年改訂)』、現行学習指導要領(1998年改訂)、新学習指導要領(2008年改訂)の食生活に関する記述を見ると、基礎的な「調理技術力」と「献立作成力」が抽出される。具体的には、「食品を組み合わせて取る必要があることを知る」、「1食分の献立(注2)」、「調理に必要な材料の分量がわかり、手順を考えて調理計画を立てる」という「献立作成力」と、「調理に必要な用具及び食器の安全で衛生的な取扱い(並びに燃料(注3))及びこんろの安全な取扱いができること」、「ゆでたり、いためたりする」調理、「米飯、みそ汁の調理」、「盛り付けや配膳」といった「調理技術力」に関わるところであり、これらは一貫して、その「内容」に挙げられてきた。 そこで本研究は、現代の小学生が1食分の献立を整えるために、食材をどのように選び、調理できるかという献立作成力と基礎的な調理技術力に注目し、25年前の「 年調査」と比べ、どの点で技能の定着・応用に課題があるのかを明らかにする。また、ここで得られた示唆をもとに、小学生の「献立作成力」「調理技術力」を高めるための学習課題について検討する。