- 著者
-
長澤 由喜子
渡瀬 典子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.57, 2014
<b>目的</b> 平成19年改正学校教育法に規定され,現学習指導要領で育成が求められる「思考力・判断力・表現力等の活用する力」は,法的な縛りをもって登場していることから,学習指導要領の次期改訂においても現行より踏み込んだかたちで提示されることが想定される。家庭科においては評価規準の設定例においても,「思考力・判断力・表現力等の活用する力」として,学習内容のまとまりABCDの指導事項ごとに育成したい力が具体的に示されているわけではない。このことが,基礎的・基本的な学びが教科目標の実践力につながりにくい状況に少なからずかかわっていると考えられる。<br> そこで本研究では,「思考力・判断力・表現力等の活用する力」に着目し,授業実践を通して学習内容のまとまりABCDごとの活用力の具体化について検討することを目的とする。<br><b>方法</b> 岩手大学教育学部附属小学校における平成25年度家庭科年間指導計画に基づく題材の中で,研究目的に即して適切な分析が可能な学習題材を検討した結果,「C快適な衣服と住まい」は生活経験を活かしやすく,「D身近な消費生活と環境」との関連も図りやすいことから,Cの題材を取り上げることとした。具体的には,C(2)イ「季節に変化に合わせた生活の大切さが分かり,快適な住まい方を工夫できること」に係る住生活題材を実践対象とした。自然の力を活用する力の見取りには夏季・冬季ともに「ダンボールルームの計画」の学習シートを用いた。夏季・冬季共通に分析対象とした児童は6年生の28名(男子13名,女子15名),実践期日は夏季2013年5月,冬季11月~12月である。 <br><b>結果</b> 今回改訂の学習指導要領において住生活分野の対象題材で活用力として問われているのは,「日光や風などの自然の力をいかに活かして住まい方を工夫できるか」である。夏季・冬季それぞれの学習シートに書き込まれた表現から読み取った快適エレメントに係る分析結果及び活用力に係る考察は以下に要約される。 <br>(1)活用力をみる上で前提となる基礎的・基本的な知識・理解の実現状況についてみると,夏季の場合は28名中11名,冬季の場合は16名が基礎的・基本的な知識・理解が十分とは言えなかった。<br>(2)夏季で基礎基本が十分ではなかった11名について冬季における位置づけを検討すると, 11名中,冬季にも同じく基礎的・基本的な知識・理解が十分ではない判断された児童は8名であった。<br>(3)夏季に日射しのコントロールの記述がない児童は,冬季においても日射しの暖かさの利用に目が向いていなかった。<br>(4)夏季に風通しの記述がなかった7名のうち5名は,冬季においても換気に係る記述が見られず,気泡断熱シートや目貼りテープ等の隙間風防止の手段を例外なく用いていた。<br>(5)実践題材の学習シートから活用力として読み取らなければならないのは,「課題解決的な要素として何を対象としているか」及び「解決策をどうデザインしているか」であり,「基礎基本の要素に係るデザイン」をいかに見取るか,その具体的な視点を活用力として明示する必要がある。<br>(6) 上記(1)(2)に示すように,活用の前段としての基礎基本が整わない状況で,課題解決としての家庭実践に実践題材における活用力を求めることができないことから,「ダンボールルーム」の学習シートを用いた効果的な活用力の育成について,上記(3)(4)(5)の結果を踏まえ,見直しの視点を示した。 <br> 以上,今回は「快適な衣服と住まい」の住生活題材に着目したが,内容のまとまりABCDそれぞれに検討が必要である。今後,ABCDそれぞれの実践課題を踏まえた上で,さらに分野ごとに効果的な活用力の育成について実践的な検討を重ねたい。