著者
川野 日郎 原 義彦 上條 秀元 平瀬 清 吉田 甫 草野 勝彦 NAKASONE Rau FINKEL Donal FIKSDAL Susa SMITH Barbar 堀 和郎
出版者
宮崎大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

本研究グループは、これまで3年にわたって大学におけるリカレント教育(生涯学習)の推進についてアメリカのエヴァグリーン州立大学(TESC)と情報交換・共同研究を行ってきた。本年度は代表者川野と協力者小林がTESCを訪ね研究のまとめを行った。TESCでは州に提出される報告書(Portfolio)をもとに教育や評価について詳細な説明を受けた。TESCの理念は、(1)大学の主目的は教育である,(2)個人学習よりも共同学習、共有学習が優れている,(3)受動的に知識を習得させるのではなく、自ら主体的に学ぶ姿勢(Active learning)を育てる教育を旨とする,(4)専門分野を個別ではなく総合的に関連づけて理解させる,(5)習得した知識は現実に適用されて初めて理解されたと云える,となっている。このような理念の実践のためカリキュラムや評価まで大学全体が組織立てられている。通常の専門教育は行われず全ての授業がそれぞれ一つのプログラムのテーマに沿った構成要素になっている。そして授業内容も徹底した横断的・総合的内容になっている。総合的教育のネックは、学生の成績評価であるが、これについても教官及び学生それぞれの立場からの評価を総合し、極めて綿密で行き届いた論述による評価方式をとっている。こうした大学の教育にかける努力には実に注目に値するものがあった。共同研究では、本来大学の使命は教育と研究であるとするわれわれと種々の点で意見の分かれるところがあったが、TESCは少なくとも教育の面については先進的であり、極めて有用な知見を得ることが出来た。本学の新しい大学教育を考えるとき研究と教育の調和をいかに図るかが大きな課題と考える。生涯学習に関しては、TESCの場合、大学教育そのものが生涯学習の一環であるといえる。大学では専門知識をそのまま直接教えるのではなく、知識の獲得の仕方、使い方を学ぶ、これは将に生涯学習者の育成である。生涯学習の制度的側面など比較研究については、未だ十分な結果は得られていないが、アンケートによる意識調査の結果によると、学生・教官ともに生涯学習に関する意識は高いことがわかった。