著者
市川 美香子
出版者
大阪市立大学
雑誌
人文研究 (ISSN:04913329)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.393-408, 1999

フィクションは「嘘」である。したがって, 語り手は読者に対して暴かれない嘘をついてはならない, つまり正直でなければならない。理由は単純至極。嘘をついたのにそれが暴かれないとすると, 元のフィクションは消滅し, 別の<フィクション=嘘>になってしまうからである。フィクションにおいて語りに「嘘」があるとすれば, 「嘘」と「真実」の両方が見えていなければならない。つまり, 歪みは歪みとして見えなければならないのである。その歪みがより明確に見えやすいのが, 作中のドラマに関わっている人物の一人称による語りである。……