著者
高橋 徹 佐藤 工 大谷 勝記 佐藤 澄人 市瀬 広太 江渡 修司 佐藤 啓 米坂 勧
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.663-668, 2002-08-15 (Released:2013-05-24)
参考文献数
16

細胞表面マーカーの1つであるCD36は血小板,単球,脂肪組織,骨格筋など全身に広く分布し,多彩な機能を有している.特に長鎖脂肪酸輸送蛋白として心筋脂肪酸代謝に関与することや酸化LDL受容体として脂質代謝に関与することから,心筋症や動脈硬化との関連が注目されている.今回,川崎病冠動脈障害例において,123I-BMIPPの心筋への無集積を契機に発見されたCD36欠損症の1例を経験した.症例は9歳男児.3歳11カ月時に川崎病発症.冠動脈障害(右冠動脈瘤と左冠動脈拡張.閉塞性病変はなし)を合併し,フルルビプロフェン内服を継続中.現在までに心筋虚血を示唆する症状や検査所見は認めず,血糖,血清脂質および分画は正常.201T1/123I-BMIPP 2核種同時収集心筋シンチグラフィーで201T1の心筋への集積は正常であったが,123I-BMIPPは全く集積を認めず.フローサイトメトリー法による血小板および単球のCD36の発現を両者ともに認めず,I型CD36欠損症と診断した.近年,成人領域で動脈硬化や心筋症の原因としてCD36の関与が注目され,CD36欠損症に関する報告が散見されるが,小児例での報告はまれである.本症例は心筋障害や動脈硬化のない段階で偶発的に発見された貴重な症例と考えられた.将来,心筋症様病態への進展や川崎病冠動脈障害を基盤とした動脈硬化,虚血性心疾患への早期進展が危惧され,今後も慎重な経過観察が必要と考えられた.