著者
栗田 健 市薗 真理子 山崎 哲也 明田 真樹 石井 慎一郎 木元 貴之 小野 元揮 日野原 晃 岩本 仁 松野 映梨子 久保 多喜子 田仲 紗樹 吉岡 毅
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2254, 2011

【目的】<BR> 投球障害肘・肩の原因は投球フォームの不正や体幹・下肢の機能不全によるといった報告は多く、臨床上これらの問題を有する症例を多く経験する。しかしこれらは、肘・肩双方に関与している要素であり、両関節への病態プロセスは不明な点が多い。過去に手指、手部、前腕部の機能不全と投球障害肘や肩との関連が報告されており、また一般的に投球障害肘のおける手内筋機能の重要性が指摘されている。そこで今回、肘・肩関節より遠位部である手内筋の虫様筋および母指・小指対立筋の機能と投球障害肘および肩との関連を調査したので報告する。<BR>【方法】<BR> 対象は、投球障害肘もしくは肩の診断により当院リハビリテーション科に処方があった24症例とした。肘・肩障害単独例のみとし、他関節障害の合併や既往、神経障害および手術歴を有する症例は除外した。性別は全例男性で、投球障害肘群(以下肘群)13例の年齢は、平均15.1±2.8歳(11歳~21歳)、投球障害肩群(以下肩群)11例は、平均23.5±11.0歳(10歳~42歳)であった。評価項目は、虫様筋と母指・小指対立筋とし、共通肢位として座位にて肩関節屈曲90°位をとり、投球時の肢位を想定し肘伸展位・手関節背屈位を保持して行った。虫様筋は、徒手筋力検査(以下MMT)で3を参考とし、可能であれば可、指が屈曲するなど不十分な場合を機能不全とした。母指・小指対立筋も同様に、MMTで3を参考とし、指腹同士が接すれば可、IP関節屈曲するなど代償動作の出現や指の側面での接触は機能不全とした。また上記結果より肘・肩両群における機能不全の発生比率を算出し比較検討した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者に対し本研究の目的を説明し同意の得られた方のデータを対象とし、当院倫理規定に基づき個人が特定されないよう匿名化に配慮してデータを利用した。<BR>【結果】<BR> 虫様筋機能不全は、肘群で53.8%、肩群で18.2%、母指・小指対立筋機能不全は、肘群で61.5%、肩群で27.2%と両機能不全とも肘群における発生比率が有意に高かった。<BR>【考察】<BR>一般的なボールの把持は、ボール上部を支えるために第2・3指を使い、下部を支えるために第1・4・5指を使用している。手内筋である虫様筋は、第2・3指が指腹でボールを支えるために必要であり、また母指・小指対立筋は、ボールの下部より効率よく支持するために必要である。手内筋が、効率よく機能しボールを把持することが可能であれば、手外筋への負担が減少し、手・肘関節への影響も少なくなる。本研究では、肘群において有意に手内筋機能不全の発生率が高く、虫様筋、母指・小指対立筋の機能低下によるボール把持の影響は、隣接する肘関節が受けやすいことが示唆された。その為、投球障害肘の症例に対してリハビリテーションを行う場合には、従来から言われている投球フォームの改善のみではなく遠位からの影響を考慮して、虫様筋機能不全および母指・小指対立筋機能不全の確認と機能改善が重要と考えられた。しかし本研究だけでは手内筋機能不全が伴って投球動作を反復したために投球障害肘が発生するのか、肘にストレスがかかる投球動作を反復したために手内筋機能不全が発生したのかは断定できない。今後はこれらの要因との関係を分析し報告していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 投球障害肘・肩の身体機能の要因の中で投球障害肘は手内筋である虫様筋や母指・小指対立筋に機能不全を有する比率が多いことが分かった。本研究から投球障害肘を治療する際には、評価として手内筋機能に着目することが重要と考える。また今回設定した評価方法は簡便であり、障害予防の観点からも競技の指導者や本人により試みることで早期にリスクを発見できる可能性も示唆された。<BR>