著者
布村 渉
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.57, no.7, pp.933-943, 2016 (Released:2016-08-05)
参考文献数
50

地球が誕生して46億年,地球上に原始生命体が登場してから約38億年の歴史からすれば,Homo sapiens(ヒト属ヒト)の繁栄十数万年は点ほどにしかならない。原始的な生命体の営みによって地球上に酸素がもたらされ,多くの生物は酸素を利用することで,より効率のよいエネルギー産生系を確立してきた。好気的呼吸をする生物にとって酸素は不可欠であり,酸素運搬の担い手である赤血球は,その進化と共に機能や形状を巧みに変化させてきた。私達の興味は,哺乳類だけが他の脊椎動物と異なりエネルギーを使って核を放出すること,つまり,脱核することにある。生物の進化は偶然の重なりの結果であるが,その偶然によって子孫を残すに至ったことには相応の意味があるはずだ。赤芽球の脱核のメカニズムと生物学的意義について,進化学的視点に立ち,哺乳類と恐竜類が共に進化した中生代約2億年とヒトの赤芽球・赤血球の知見を統合して考察したい。