著者
平井 京之介
出版者
日本文化人類学会
雑誌
民族學研究 (ISSN:00215023)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.366-387, 1995-03

北タイの農村地帯に1980年代後半突如として外資系企業を主とする巨大な工業団地が出現した。ここで働く女性工場労働者は収入の大半を家の新築や家財道具の購入につぎ込んでおり,家にどれだけ豊かなモノを揃えたかを村の同年代の女性どうしで競いあっている。本稿では,彼女たちの消費行動が村において構築された家と女性に関するハビタスに基礎を置いており,そうしたハビタスによって生み出される実践は工場社会で新たに経験する同僚との相互行為を通じて変容されるということを考察する。そして,彼女たちにとって家を化粧するということは,工場での実践の変容を通して顕在化したものであるが,村で形成された女性の名誉に関するハビタスに根差したものであり,自己の相対的地位を高めることを目的とした能動的行動であるということを論じる。