著者
平井 儀彦 山田 稔 津田 誠
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.436-442, 2003-12-05
参考文献数
40
被引用文献数
3

登熟期の気温の違いがポット栽培したイネ個体の暗呼吸量と穂の乾物成長に及ぼす影響を定量的に検討するため,4月,5月,6月の3時期に播種することで登熟期の気温を変え,気温の差が登熟;期の暗呼吸速度と乾物生産に及ぼす影響を調査した.出穂日は4月播種では8月4日で,5月と6月播種ではそれぞれ4月播種より14日と28日遅かった.4月播種における出穂後6日目〜19日目の平均気温は,5月と6月播種より約4℃高かった.回帰法により成長呼吸と維持呼吸を推定すると,穂の暗呼吸速度は主に穂の成長に関わっており,穂の維持呼吸は4月播種と5月播種では高く,6月播種で低かった.茎葉部の暗呼吸速度は主に穂への炭水化物の転流に関わっており,茎葉部の維持呼吸は4月播種と5月播種で高く,6月播種で低いと推定された.つまり,出穂期の違いによる平均気温の上昇は必ずしも維持呼吸を増大させないことが示唆され,維持呼吸は登熟期の気温に直接影響されるだけでなく,それまでの生育前歴によっても変わると考えられた.また,穂の乾物成長は維持呼吸の増加にともなう暗呼吸量の増大によって低下することが定量的に示された.
著者
哈 布日 津田 誠 平井 儀彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.32-38, 2014 (Released:2014-01-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1

塩ストレスと同時に水ストレスが作物生産を低下させることが増えると指摘されているので,塩濃度と量が異なる土壌においてイネの水利用と乾物生産および根成長の関係を明らかにした.容量の異なるポットに1~10 kgの土壌を入れ,各土壌1 kgあたり1gと2 gの塩化ナトリウム (NaCl) を入れた溶液を土壌重の50%加える2区およびNaClを加えない区を設けた.耐塩性品種IR4595-4-1-13と普通品種日本晴を移植して,その後給水しなかった.葉身の伸長停止で成長が止まったものとし,その日のイネの乾物重とNa+含有率および土壌残存水分量を測定した.地上部と根の乾物重は土壌の量が多いほど大きく,土壌NaCl濃度が増えるほど低下した.地上部乾物重は,地上部Na+含有率の増加にしたがい低下した.土壌残存水分量は土壌の量とNaCl濃度が高いほど多かったため,蒸発散量は土壌NaCl添加によって低下した.そして地上部乾物重は蒸発散量に比例的に大となった.土壌残存水分含有率はNaCl無添加土壌では根が十分に成長して低い値であったが,塩濃度が高く量が多い土壌では根の成長が小さく土壌残存水分含有率は高かった.以上から塩土壌においてもイネの乾物生産は蒸発散量に比例的に大となると同時に蒸発散量の低下はイネ根の成長阻害によって利用できる土壌水分量が減少するためであると考えられた.