著者
平尾 一之 田中 勝久
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

セラミックスの破壊強度は雰囲気の影響を大きく受ける。特にアパタイト-ウォラストナイトガラスーセラミックス組成の人工骨では、ガラス相を粒界相に存在するので、その影響は顕著である。本研究では、この人工骨を用いて、凝似体液を始めとする種々の環境下で、破壊特性がどのように変化するかについて調べるとともに、破壊じん性が大きく、応力腐食や疲労を受けにくくするには、組成をどのように改善すれば良いかなどについて検討を行った。得られた結果は以下の通りである。(1)アパタイトーウォラストナイト人工骨セラミックス(以下AW)の安定破壊試験を行ない、破壊じん性値が1.12MPa・m^<1/2>であることがわかった。また、その有効破壊エネルギ-は、ケロシン中で3.88Jm^<ー2>となったが、水中では1.99、凝似体液中では1.84と大きく減少し、応力腐食反応を人工骨が受けやすいことがわかった。また、破断面のSEM観察の結果、破壊は粒界ガラス相で生じていることがわかった。以上より、水や凝似体液は、粒界のガラス相と腐食反応をおこし、破壊エネルギ-、つまり破壊じん性値を下げることがわかった。実際に、使用条件下では、応力を受けているので、この反応を抑えることが肝要である。そこで、ガラス組成をケイ酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩ガラスを変化させ、ガラス自体の安定破壊をおこさせ、その挙動を観察したところ、ケイ酸塩ガラスでは胞性破壊しやすいのに対し、リン酸塩やホウ酸塩ガラスでは塑性変形をおこしやすいことがわかった。そこで、出発原料として、リン酸塩組成を多く含ませることにより、人工骨セラミックスの破壊特性を改良できることがわかった。(2)分子動力学コンピュ-タシミュレ-ションにより、原子レベルでの破壊実験を行なったところ、ホウ酸塩ガラスではその構造にボロキソルリングなど中距離表面構造があるので塑性変形しやすい事がわかった。