著者
村上 正志 平尾 聡秀 久保 拓弥
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.362, 2005 (Released:2005-03-17)

植食性昆虫の群集構造を制限するメカニズムとして、捕食者や寄生者を介した植食者間の見かけの競争が重要である可能性が示唆されている。しかし、これまでのほとんどの研究は実験条件下での検証であり、野外においてはわずかに一例が報告されているにすぎない。森林生態系において、ジェネラリスト寄生者である寄生蜂は被食者である潜葉性昆虫間に見かけの競争を引き起こす可能性があるが、これは空間構造をもつ生息場所を舞台として生じており、空間構造が見かけの競争の有無に影響を及ぼしていると考えられる。寄生者の分布様式に空間的な集中が見られるならば、近接する樹木個体上に生息している潜葉性昆虫個体群の間に見かけの競争が生じていることになる。本研究では、森林生態系において潜葉性昆虫_-_寄生蜂群集を対象として、空間スケールに依存した生物間相互作用の定式化を試みる。調査は北海道大学苫小牧研究林で行った。30m四方の調査プロットを5つ設定し、樹木7種の位置を計測した。また、すべての樹木個体から潜葉性昆虫を定量的にサンプリングし、潜葉性昆虫を飼育することによって樹木パッチあたりの寄生率を調べた。生物間相互作用の空間パターンの解析に際しては、寄生の空間相関モデルを検討した。モデルでは正の空間相関が検出されたときに見かけの競争があることを仮定している。寄生蜂の空間分布パターンは潜葉性昆虫種や寄生蜂種、モデルで仮定する近傍情報に依存して様々な変動を示したが、近傍までの距離が比較的近い場合,寄生の空間パターンとして正の空間相関が見いだされる傾向があった。これらの結果から,森林内で寄生蜂は空間的に集中し、潜葉性昆虫の間に見かけの競争が生じていることが明らかになった。
著者
岩城 常修 平尾 聡秀
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第125回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.371, 2014 (Released:2014-07-16)

本研究では、冷温帯の人工林および天然林の下層木において、鳥類やコウモリ類による捕食が節足動物の摂食活動に及ぼす影響を調べた。調査は東京大学秩父演習林で行った。人工林ではカジカエデ、天然林ではヒナウチワカエデを対象として各種20個体を選木し、それぞれ10個体については2013年5月に網掛けによる鳥類とコウモリ類の排除を行った。そして5月から8月に毎月一回対象木から葉を採取して食痕数を調べ、葉の概形を描画ソフトで復元し食害率を算出した。また、葉の質が節足動物の摂食活動に及ぼす影響を考慮するため、葉の面積当たり重量、含有タンニン量、フェノール量を測定した。その結果、人工林でも天然林でも捕食者の排除によって食痕数と被食率は増加を示し、その差の変化は5月から6月の間が顕著であり、その後は処理木も対照木も同じように推移した。葉の質に関しては網の有無による差はみられなかった。本調査により、人工林でも天然林でも同じように鳥類やコウモリ類の捕食が節足動物の個体数制御に大きく関与しており、秩父ではその活動は5月から6月に活発であること、葉の質が節足動物の摂食活動に与える効果は小さいことが分かった。