著者
平山 豪 中井 検裕 中西 正彦
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.595-600, 2003-10-25
被引用文献数
6

昨今、地球温暖化をはじめとする地球規模の環境問題が大きく取り上げられてきた。その中でも多くの人が住む都市の環境悪化が課題として注目されている。都市の環境悪化の例を挙げればヒートアイランド現象・大気汚染・ごみ問題・都市型洪水・エネルギー問題等々きりが無く、またこれらの原因は非常に多岐にわたり、その解決は困難を極めている。その中でも都市内における緑の喪失は多くの問題の原因であり、いかに緑地を確保していくかが大きな課題である。しかし、高密度に利用されている現在の都市においては新たに緑地を創出する為の土地はほとんど無い。そのため、新たに新規緑地を創出できる場としての屋上が注目され始めている。この様な背景を受け、行政は屋上緑化推進のために様々な施策を設けているがそれらがどの程度の効果又は害をもたらすか、屋上緑化推進の目的を本当に果たしているかは未だ明確に把握されていない。本論文では屋上緑化を義務化した屋上緑化義務条例と屋上緑化面積と引き換えに容積率を与える容積率割増制度を対象として取り上げる。 また、既存研究によると屋上緑化の経済的な効果にのみ着目すれば断熱材の利用や配色の工夫など代替的な方法でより安く・効果的な方法がある事が示され、屋上緑化の有効性が疑問視されている。しかしそれらの屋上緑化の評価には、本来緑地が持つ安らぎ・豊かさ感といった生理・心理的な効果は考慮されていない。ゆえにこれからの屋上緑化施策を考えるにはこの生理・心理面の効果を考慮に入れた経済的評価が必要であると思われる。 東京全体で屋上を緑化できる平坦屋根面積は屋上開発研究会によると約2000haと港区に匹敵する面積であり、その中でも宅地の占める割合が大きく、住宅の屋上緑化は東京における今後の緑地増加に対して大きな役割を果たすと思われる。よってその効用を明らかにする事は重要である。 そこで本研究では住宅の中でも、今後都心部おいて増加が予想され、しかも緑化義務条例・容積率割増制度の対象となり易い集合住宅に着目し、屋上緑化のなされた集合住宅の住民・周辺住民を対象とした仮想市場法(CVM)により生理・心理面を含めた屋上緑化による効用を定量化し、この結果を踏まえた上で、現在行政が行っている2つの屋上緑化推進施策と両制度併用時の評価を行なう事を目的とする。 結果として、まずCVMにより定量的に把握した。住民の平均WTPは679円・周辺住民の平均WTPは179円であった(抵抗回答は除く)。また分析により住民が利用可能な屋上緑地の方がその効用が高まり効果的であり、屋上緑化が効果的な地域は市街地等緑の不足が問題視されている地域であると考えられる。 次にそれに基づいて施策への評価を行った。「屋上緑化の義務化」制度(緑化率20%)にはある程度の妥当性が認められたが、指定容積率による段階的な緑化率の設定等改善の可能性もあると考えられる。「屋上緑化に対する容積率の割増」制度(緑化率50%、容積率50%増)は建物経営者にとって魅力的な制度となっており多くの適用が予想されるが、その結果として住民・周辺住民にとってマイナスの効果を及ぼす危険性があると思われ、高い指定容積率の建物に絞った適用が考えられる。また義務化制度のある東京都において容積率割増制度(緑化率30%、容積率30%増)を併用することは住民・周辺住民にとってマイナスの効用しか与えなく、さらには本来の屋上緑化推進という目的を果たし切れていないと思われる。