著者
渡辺 文太 平竹 潤
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.354-361, 2015-05-25 (Released:2016-05-20)
参考文献数
31
被引用文献数
3

生体内還元物質であるグルタチオン(GSH)は,活性酸素種の除去(抗酸化)や,求電子的な化合物,重金属など生体異物(毒物)の解毒の最前線に立つ極めて重要な分子であり,酸化ストレスを介してがん化学療法から薬剤耐性,生活習慣病に至るまで,病態と深くかかわる.GSH生合成は,律速基質であるCysの供給に大きく依存しており,近年,GSH代謝やCys供給(Cys availability)にかかわる酵素やトランスポーターが,抗がん剤などの重要な創薬ターゲットとして注目されている.本稿では,GSHの代謝を概観したあと,GSHのもつチオールの化学にフォーカスし,GSHの代謝異常と病態の複雑な関係,GSH代謝やCys availabilityにかかわるタンパク質とその活性制御が有用な創薬につながる可能性について解説する.
著者
小田 順一 加藤 博章 平竹 潤 田中 啄治
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、ATPを補酵素として用いる反応として、異なる基質間にCN結合を形成する3つのリガーゼ、グルタチオン合成酵素、γグルタミルシステイン合成酵素、アスパラギン合成酵素を、また、NADPHを用いる反応として、トロピノンから互いにジアステレオマ-の関係にあるトロピンとψトロピンを生じる2つのトロピノン還元酵素を取り上げ、X線結晶解析による立体構造を基に、遺伝子工学を用いて部位特異的変異導入を行いながら、有機合成化学的なアプローチによって反応機構を明らかにするための研究を行った。得られた成果のうち主なものは以下の通りである。1.γグルタミルシステイン合成酵素の分子表面に存在するシステイン残基をセリン残基に変換することにより、同酵素を結晶化することに成功した。同酵素の遷移状態アナログの合成にも成功し、活性中心において厳密に認識されている部分構造のモチーフを明らかにすることが出来た。2.互いに立体特異性の異なる2つのトロピノン還元酵素については両者とも結晶が得られ、多重同形置換法を用いて独立にX線結晶解析を行い、立体構造を決定することが出来た。その結果、厳密な基質特異性の違いは、基質結合部位のわずかな違いによるものであることが判明した。3.アスパラギン合成酵素の活性中心を形成していると予想されるアミノ酸残基を部位特異的に変換することにより、活性に必須なアミノ酸残基を同定することに成功した。また、同酵素の遷移状態アナログの合成にも成功し、得られた遷移状態アナログと酵素との複合体のX線結晶構造解析も現在進行中である。
著者
平竹 潤 渡辺 文太
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ヒトアスパラギン合成酵素(hAS)は、急性リンパ性白血病のアスパラギナーゼ療法において、再発や薬剤耐性を引き起こす原因酵素として注目されている。本研究は、hASを特異的に阻害することで、薬剤耐性を獲得した急性リンパ性白血病細胞に対して有効な新しい化学療法剤を開発することを目的としたものである。hASの反応機構にもとづき、その遷移状態アナログとなるN-adenosylsulfoximine およびその誘導体を合成した。その結果、hASを時間依存的に強力に阻害する化合物を得ることに成功し (Ki* = 7.6 nM)、アスパラギナーゼ耐性の白血病細胞に細胞死を引き起こすことを、世界で初めて示した。