著者
鈴木 裕之 中野 実 蓮池 俊和 仲村 佳彦 畠山 淳司 庭前 野菊 清水 尚
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.297-302, 2011-06-15 (Released:2011-08-19)
参考文献数
17
被引用文献数
2 1

症例は70歳の女性。自宅で呼吸苦を自覚し自ら119番通報をした。救急車内収容時に無脈性電気活動(pulseless electrical activity; PEA)となり,救急隊員による約1分間の心肺蘇生術で心拍再開し当院へ搬送された。当院到着時に再びPEAとなり,アドレナリン1mgを投与し,気管挿管,当院スタッフによる約8分間の心肺蘇生術で心拍は再開した。心エコーで著明な右心負荷所見,胸部造影CTで左右の肺動脈に血栓を認め,肺塞栓と診断した。へパリン3,000単位静注後,肺動脈造影を施行したところ,肺動脈主幹部の血栓は既に溶解しており,造影欠損像を末梢に認めるのみであった。循環動態,呼吸状態ともに安定したため,抗凝固療法のみ行う方針でICUに入室させた。しかし,ICU入室4時間後から徐々に血圧が下がり始め,入室6時間後にはショック状態となった。心エコーで右心負荷所見は改善傾向にあり,肺塞栓による閉塞性ショックは否定的だった。腹部エコーで大量の腹水を認め,腹部造影CTでは血性腹水と肝裂傷を認め,胸骨圧迫による肝損傷から出血性ショックに至ったと診断した。硫酸プロタミンでへパリンを拮抗し,大量輸血で循環を安定させ塞栓術による止血を試みた。しかし,肝動脈と門脈からの血管外漏出は認められず,塞栓術による止血は不可能であった。静脈性出血の自然止血を期待し腹腔内圧をモニターしながら,腹部コンパートメント症候群に注意しつつ経過観察した。第2病日循環動態は安定し,第9病日抗凝固療法を再開した。第10病日人工呼吸器離脱し,第40病日独歩退院した。心肺蘇生術後の患者では,蘇生術に伴う合併症の発生を常に念頭に置きながら,原疾患の治療にあたることが重要である。