著者
庵原 遜
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.405-412, 1966 (Released:2007-07-05)
参考文献数
16

(1) 前年枝を使つたカエデの枝接が活着しにくい原因を明らかにするために, 1964年から′65年の間に, イロハモミジを材料としてカルス形成と環境温度との関係を調べ, 更にイロハモミジにノムラを接木したものについて, 同じく環境温度と接木のゆ合組織発達との関係を調べた。(2) 6日間の観察では, カルスは15°C以下ではほとんど形成されない。20°C以上になると温度の上昇とともに形成量が増加し, 30°Cでは急激に増大した。接木のゆ合組織の発達も, 30°Cでヵビのために阻害されたのを除いて, これと全く同じ傾向を示した。(3) カルスは組織が若いほどよく形成された。しかし前年生の組織でも, 接木活着に重大な影響をおよぼすほど少なくはなかつた。(4) カルスは, 休眠期に多く形成され, 生育伸長期にやや少ない傾向はあるが, 年間を通じてつねによく形成された。接木も環境条件を調節すれば, 季節による活着率の差はあるが年間を通じてよく活着した。(5) 以上の結果は, 接木のゆ合組織の発達がカルスの発達と同じ要因の影響をうけることを示す。また, これまで前年枝を使つたカエデの枝接が活着困難であつたのは, 環境温度の不足によるものであろうと推定される。すなわち, 接木親和性のある樹種において, 接木活着に影響する最大の要因は接木時の環境条件特に環境温度であると考えられた。
著者
庵原 遜
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.183-189, 1966 (Released:2007-07-05)
参考文献数
13

(1) 1963•1964年の2か年にわたつて, ナシ•モモ•カエデ•ハクモクレン•ロウバイ•ツバキ•サザンカを材料として, 緑枝接と前年枝接との活着経過を組織学的に観察比較した。(2) 緑枝接の場合, 実験に使つた各花木はいずれも良く活着したが, 前年枝接の場合ナシ以外はすべて活着せず, 3~4週間で穂木が枯死してしまつた。(3) 緑枝接でも, 前年枝接でも, 接木が活着する場合, その組織学的な一般経過は次の3つの Stage に分けることがでぎる。1. 第1 Stage: 台木と穂木の形成層に近い柔細胞が分裂してゆ創細胞を形成し, それぞれの傷面より押し出して両者が接触する。2. 第2 Stage: 接触したゆ創細胞がさらに分裂増殖して, 互いに交錯抱合する。3. 第3 Stage: 交錯抱合したゆ創組織中の一部の細胞が分化して連絡形成層となり, 台木と穂木の形成層を連絡する。この時期にはゆ創組織中の一部の細胞が分化して彎曲した通導管となり, 台木と穂木の通導組織を連絡している。この第3 Stage で接木のゆ合作用は完成したといえる。4. 前年枝接(ナシ)の場合, ゆ創細胞が形成されるのは, 台木穂木ともに形成層に近い飾部組織の柔細胞からだけであつたが, 緑枝接の場合は形成層に近い木部および篩部組織の柔細胞はもちろん, 少し遅れてPith, Protoxylem, Cortex の柔細胞からも分裂形成される。5. ゆ合作用の進行速度は, 前年枝接 (ナシ) の場合第3 Stage (形成層の連絡) に達するのに5~6週間を要したが, 緑枝接の場合は一般に非常に早く, ナシ•モモは10~12日, ハクモクレン•ツバキ•サザンカは20~25日, カエデ•ロウバイは25~30日で第3 Stageに達した。6. 緑枝接は, 台木と穂木の組織が若くて未分化の柔細胞が多く, いろいろな組織からゆ創細胞が分裂形成されることと, 接木時期の環境条件がゆ合組織の形成発達に有利なことなどのために, 接木活着が容易であると考えられる。