著者
後藤 利明 山下 一朗 高木 章好 石井 智己
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.24, pp.P081, 2008

【はじめに】<BR>筋萎縮側索硬化症(以下ALS)は進行性の難病である.筋力低下の部位と程度、在宅生活であれば在宅での介護力の程度により、患者・家族に対する環境整備、補装具等が異なる.その為、チームでの適切な対応が重要となる.今回、訪問リハビリテーション(以下訪リハ)の経過の中で補装具を工夫したので報告する.<BR>【症例紹介】<BR>69歳 女性 家族構成:夫、長男、の3人暮し.現病歴:平成15年7月頃より頚部筋力低下.平成16年2月ALSと診断.平成18年~上肢筋力低下、球麻痺進行.平成19年1月胃瘻造設.6月痰がつまり呼吸停止、救急搬送され延命.気管切開、人工呼吸器管理となる.8月退院し在宅生活に入る.日中は主に夫、看護師、ヘルパーが介護.9月より週1回、訪リハ開始.<BR>【訪リハ開始からの経過】<BR>(平成19年9月)ADL:寝返り軽介助、入院時導入された頭頚部支持装具(体幹型)使用にて座位保持は体幹介助.起立・歩行は軽介助.リハビリの受け入れ良好で、特に離床・歩行へのモチベーションが高かった.そこで問題となったのは、入院中導入された補装具である.頭頚部の制動性は十分である.但し、拘束感・不快感が強く、着脱に2人の介助者を要し、体位変換が必要で時間を要する為、本人への身体負担もあり苦痛となっていた.そこで義肢装具士と相談し、頭頚部の制動性が十分で本人が装着時に不快感無く、1人の介助者で容易に着脱可能なものを模索した.胸郭に支持させることは呼吸運動の妨げとなることと、そこまでの制動性が不要であると評価し、頚椎カラーとした.材質:前部(発泡ポリエチレン・プラスチック)、後部(発泡ポリエチレン・綿).重量:80g.ベルクロでの2ヶ所の着脱とし、体位変換不要で1人の介助者で装着可能.(平成20年4月)ADLに大きな変化みられず.車椅子まで軽介助歩行、近所の公園に外出可能.座位1時間程度、楽に可能.1日1回は看護師、ご主人等が介助し離床、車椅子に移乗し座位で過ごされている.6月現在、筋力低下はみられているがADL は維持されている.<BR>【考察】<BR>ALSは言わずと知れた進行性の難病である.そして在宅で生活する方も少なくない.ALSという疾患の特徴から、より良い在宅生活を送る為には、個々の患者・家族に適した対応が適時に必要となる.離床し、歩行して座位で過ごすことは本症例の楽しみと希望である.それは残存能力を維持することだけではなく、何より大切なQOL向上に結びつくと考えられた.しかし導入されていた補装具は、それを補うことに不十分であった.今回、補装具導入に関して感じたことは、病院での介護力と在宅でのそれとは異なる、との意識が欠けた為、在宅に帰るケースであっても在宅生活が想定されていないと思われた.今回の経験では、導入時に在宅での実用性や家族の介護力をしっかりと把握した上で、家族・他職種との十分な連携と協力の重要性が認識された.