著者
得丸 公明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. IT, 情報理論 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.220, pp.55-60, 2011-09-22
参考文献数
11

情報理論というとシャノンを思い浮かべる人が多い.しかしジョン・フォン・ノイマン(1903-1957)も,生命の自己複製と進化を自動的になしとげる複雑さを生みだすメカニズム「オートマトン」の研究として情報理論の必要性を訴えていた.そして,組合せ,熱力学,形式論理学,デジタルといった基本概念を吟味し,万能チューリングマシン,デジタル神経ネットワーク,長期記憶メカニズムといったシステム構成要素を論じていた.情報は離散的で有限個の元からなる論理記号が,一次元状に配列された表現であり,それが媒体を変調して回線上を伝搬し,宛て先でデジタル復調されて複雑な意味を構築する.デジタル信号はアナログ信号よりも信号対雑音比(S/N比)にすぐれているから,組合せ理論にもとついて符号語の種類が桁違いに多くなり,一回だけ送信すれば相手にメッセージが届く.ほぼ無限に作り出せる符号語が,一度送信するだけで相手に届くことの相乗効果として,短い符号語が意味単位の接続や意味の修飾を行うようになった.これが言語における文法,タンパク質合成における非コーディングRNA,コンピュータ・ネットワークにおけるプロトコルスイッチである.宛て先で処理されるための情報以外に,情報を処理する回路の組み立て方を指示した情報を宛て先に送ることができるので,情報によって情報処理回路を作れる.できあがった処理回路を処理回路を作る回路に投入すると,一段上のレベルの処理が可能な処理回路ができ上がる.これを何度も繰り返すと,だんだん処理できる複雑さのレベルが上昇し,複雑さのレベルが同等な子孫を生みだし,さらに複雑さを増した進化を自然に生みだせる.具象概念から類概念・関係性概念に発展したものが,抽象概念,公理,公理系へと発展する過程も自己増殖による複雑化と考えられる.
著者
得丸 公明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NLC, 言語理解とコミュニケーション (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.119, pp.49-54, 2011-06-30
被引用文献数
1

西洋の論理学においては,言語命題のみが扱われてきた.日本には日本論理学会も存在しないし,言葉の論理を積みあげること自体が好まれない.イエルネのネットワーク理論とピアジェの心理学を参照にして,日本と西洋の違いを,生命体のもつ論理と記憶の記号メカニズムによって解明することを試みる.記号論において,言葉に意味はなく,言葉の意味は個人の体験記憶である.同様に言語表現の論理性は,言葉自体によって保証されるのではなく,言葉に意味を与える意識が保証するものである。言葉の記号は意識の論理回路で反射的に処理されるので,その構築が重要となる.言語以前の論理学を理解すると,言葉の正しい使い方,言葉の正しい意味付け方を理解でき,先人の努力と言葉を継承して前進することができる.