著者
徳田 迪夫 内迫 貴幸
出版者
三重大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

木構造の設計をより合理的に行うためには、釘接合のメカニズムを基本に戻って詳細に調べておく必要がある。そこでまず第一に、木材に特有の釘の保持能力を調べる過程として、釘打ちによる木材の割れと保持力の関係に注目をしてみた。木材を切ったりすることなしに、割れ全体が視覚化できる方法はないものかと思考錯誤した結果、浸透性の高い胃透視用のバリウム液を釘打ちによって生じた割れ内部に減圧後に浸透させ、X線撮影によって割れの形状を定量的に簡便にできる方法を考え出した。第二に、打釘による割れを利用して、逆に木材の材質を判定することを試みた。打釘による割れはほぼ木材の比重に比例するが、樹種、成熟材か未成熟材といったものが大きくきいてくる可能性がある。これらの因子を打釘による割れから推定した。次のような結果が得られた。1)バリウムを釘打ちによって生じた木材の割れ内部に浸透させることにより、木材内部に広がる割れについても、定量化できた。2)割れの形状は試験管型、楕円型、すり鉢型の3種類で、いずれも同一割れ面積の楕円で近似が可能であった。3)釘の打ち込み回数の木材の割れ量への影響は極めて大きかった。4)異形釘は、スムーズ釘に比べると割れ量は少なかった。5)先端角度が大きい(鈍い)釘程、木材の割れは少なかった。6)木材の含水率が割れに及ぼす影響は大きかった。7)釘の打ち込み面が板目か柾目ということの割れへの影響は少なかった。8)釘内による木材の割れ量は同一樹種間では、木材の比重と釘径の関数として表せた。このことを利用して、釘接合部の設計の際の最適釘配置方法を釘径および木材の比重をパラメータとして提案した。しかし、樹種が異なると、それぞれ樹種特性があり、単純に比重の関数として表すことはできなかった。9)ヒノキは他樹種より釘打ちによる木材のの割れが少なく、しかも、比重に比例した引抜き耐力を有する粘りのる材であることが、バリウム浸透法で明らかになった。10)未成熟材と成熟材では同一比重でも、釘打ちによる木材の割れ量は大きく異なったが、生長の遅いベイツガは、比重のわりに材がもろくて、割れ量が少なく、材のどの部分でも、未成熟材と同じ性質を有していた。11)釘打ちによる木材の割れは樹種や材質と深い関係にあり、今後さらに本研究手法を用いることにより、木材の新たな材質の評価が可能であると考えている。特に国産のスギ、ヒノキと北米産の針葉樹との違いが明らかになり、スギ、ヒノキを建築用材として用いる際の長所が引き出せるものと考えている。
著者
光永 徹 徳田 迪夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では樹皮の浄化作用の一つである消臭作用に着目し、樹皮抽出物中の縮合型タンニンおよびそのアセトアルデヒド付加縮合変性物のアンモニアとメチルメルカプタンに対する消臭活性メカニズムを分子軌道計算結果から明らかにすることを目的としている。平成13年度はヘッドスペースガスをGC/MSで分析する消臭試験を行ったところ、従来のデシケータ法に比べ圧倒的に再現性があると同時に、少量の試料で試験ができる点が改善され、信頼性のより高い消臭試験を確立した。その結果、樹皮由来の縮合型タンニンおよび茶抽出物のポリフェノールはアンモニアに対しては良好な消臭活性(消臭率70〜100%)を示したが、メチルメルカプタンに対しては柿抽出物以外はほとんどその効果を示さないことが明らかとなた。用いた柿抽出物は、渋柿を熱水で抽出し熟成させたものであるため、柿の生体内で蓄積されるアセトアルデヒドと縮合型タンニンが付加縮合してできる高分子不溶性物質であると考えられた。そこでアカシア樹皮由来のワットルタンニンを用いてアセトアルデヒドとの付加縮合物を合成し、その消臭活性を検討したところ、メチルメルカプタンに対し85%以上の良好な消臭活性を示すことを明らかにした。平成14年度はメチルメルカプタン分子の捕捉サイトを明らかにする目的で、付加縮合物のカテキンdimerの半経験法による分子軌道計算を行ったところ、ジフェニルメタン炭素原子上(付加縮合サイト)には分子上で一番大きなプラスのチャージが存在し、メチルメルカプタン分子の硫黄原子の大きいマイナスチャージがこのサイトに引き寄せられることが予測された。また静電ポテンシャルのマッピングの結果その分布状態が大いに消臭活性と関連することを明らかにした。