著者
南 正康 恵 答美 李 卿 稲垣 弘文
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

1.バイオロジカル・モニタリングの研究4名の患者の尿検体が被曝から約3週間に渡って採取したものが保存してあるのでそれについてサリン及びその合成時の副生成物の代謝物を測定して被曝の実態を解明した。多数の副生成物に被曝されていると思われる。さらにサリン代謝産物の一つメチルホスホン酸は、これが全てサリンに由来するとなると致死量を大幅に越えていたのであるが、我々が取り扱った患者4名の中1名は被曝後1年で死亡したが残り3名は2002年3月に至るも1名も死亡していない。その上このメチルホスホン酸値は症状が重症な程、尿中総排泄量が少なかった(Hui and Minami, Clin.Chim.Acta 2000,302:171-188.)。2.サリン被曝に依る中枢および自律神経系への影響1998年に当時、被曝者の救命救急に携わった消防士及び警察官にたいしてケース・コントロール研究を被曝者56名、対照者52名について行った。其の結果、数値の逆読みテストが被曝者群で点数が低かった。しかし、この結果は所謂PTSDの症状を持っこととは無関係であった。またBenton visual retention testも被曝者群で点数が低くかった。これらは記憶の機能の慢性的な低下を示唆するものである。(Environ.Hlth Perspect.2001;1169-1173.)3.現在進行中の研究i)サリン及び其の合成時の副生成物への被曝者の尿中8-ハイドロキシデオキシグアノシン(8-OHDG)の測定は1つの発癌のリスク評価となるが現在迅速に多数の検体を測定する方法を検討中である。ii)有機リンを代謝する酵素の一つパラオキソナーゼの従来から知られている酵素以外に至適pH6.5を持つ新しい酵素を発見した。これについても詳細を検討中である。