著者
成 玖美
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.43-56, 2005-01-14

アメリカの大学が地域サービスを重視しながら大学エクステンションを発展させてきたことはよく知られている。しかし南部黒人集住地域の地域開発に寄与した黒人大学のエクステンションについては、従来、等閑視されてきた。本稿は19世紀末から20世紀にかけてのタスキーギ学院におけるエクステンション活動を、地域開発教育の視点から検討するものである。タスキーギ学院は、タスキーギ黒人会議および地区会議ネットワーク、および数種の農業技術指導講習会を通して、農村生活改善に尽力した。また家庭を支える女性の役割を重視し、母親集会やセツルメントなどを通して、女性の意識向上に努めた。さらには地域図書館設立や農村公立学校の改善指導など、さまざまな形で地域開発教育を展開した。こうした実践は、学習機会が圧倒的に乏しく、差別の厳しい環境における切実な地域開発教育実践として評価されると同時に、体制内改良主義的教育としての限界をも持つ。それは現代多文化主義教育が構想される以前の、「近代」マイノリティ成人教育の光と影を示していよう。一方で、タスキーギ学院のエクステンションは、大学の専門性の地域還元という性格だけでなく、より幅広い対象へのアプローチを展開させており、地域開発の総合的教育機関としての役割を担っていたとも解される。地域開発を梃子として人種の地位向上を目指した、南部農村地域における黒人大学エクステンションの歴史的性格を、検討する。
著者
成 玖美
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

今年度は昨年度までの研究をもとに2本の論文を発表した上で、新たに在日韓国・朝鮮人女性の生涯学習課題について考察をおこなった。発表論文では、EU統合の流れの中で議論されてきた「社会的排除と包摂」の視点に学びつつ、現在の在日韓国・朝鮮人の状況を「シティズンシップからの排除」と捉えて、それを乗り越える「包摂」像を在日韓国・朝鮮人NPO実践の中から描き出した。具体的には、先進的在日韓国・朝鮮人NPO実践の中で志向されているのは、単なる日本国家への直接的包摂ではなく、東アジアへの自己解放/東アジア共同体への包摂、という回路を採る歴史的かつ創造的戦略の姿であると論じた。また別稿においては、在日韓国・朝鮮人が東アジア共同体構想に寄せる期待を論じた上で、それが新たな民族主義に回収されないようなあり方を模索する必要について触れた。一方、今年度からは在日韓国・朝鮮人女性のキャリア形成や生涯学習課題についての研究も開始した。昨今の生涯学習課題としてキャリア形成の課題が注目されているが、みずからが在日韓国・朝鮮人であることが、キャリア選択などにどのような影響を与えているのかについて検討した。また先行研究において、在日韓国・朝鮮人女性は民族的マイノリティであるというホスト社会からの差別に加え、在日韓国・朝鮮人の家父長制社会の中での女性差別という、二重の差別=「複合差別」状況にあるといわれてきたが、この「複合差別」は現在では多数派を占める日本人男性と結婚した在日女性にも当然、やや姿を変えて現出すると考えられる。女性のライフコース選択に及ぼすエスニシティとジェンダーの作用に着目し、複合的葛藤の中から立ち上がる学習課題の様相について、引き続き研究を重ねていきたい。