著者
折田 創 Kuhajda Frank Gabrielson Edward
出版者
順天堂大学
雑誌
順天堂医学 (ISSN:00226769)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.10-15, 2008

脂肪酸合成酵素Fatty Acid Synthase(FAS)は,食道癌,胃癌,大腸癌といった消化器病や乳癌,肺癌などの多くの癌に高発現している.現在までにわれわれは,C75という脂肪酸合成酵素阻害剤を用いたとき,この酵素(FAS)の活性低下が癌細胞をアポトーシスに誘導し腫瘍縮小効果を認めることから,新しい抗癌剤としての可能性を報告してきた.残念ながら,このC75はFAS酵素活性の低下と同時に,CPT-1(Camitine O-Palmitoyltransferase-1)を刺激することによる,容量依存性の食欲低下,体重減少を引き起こす.われわれのグループでは,このC75の副作用を抑え,つまりCPT-1を刺激することなく,脂肪酸合成阻害を行う第二世代薬の研究を行ってきた.百数十の候補の中でC93が,C75と同等,もしくはそれ以上強力に,脂肪酸合成を阻害し抗腫瘍効果を認めた.また薬物動態試験で,C93はC75と同様,半減期が約12時間であり,癌細胞内の脂肪酸レベルを低く保つ為には一日2回投与が必要であることが判明した.マウスに実際投与したところ,C75では週1回の投与で体重減少を起こし長期治療が困難であったがC93では副作用を認めず連日投与が可能であった.今回,肺癌細胞を2種類の方法でマウスに移植したモデルを用いて,C93での治療を行った.この結果,治療群が非治療群と比較し有意差をもって腫瘍増殖抑制効果を認めた.特別な副作用も認められなかった.また,この薬を用いて,ニコチンによる肺癌モデルのマウスに投与したところ,肺癌の発生を抑えることが可能となり,脂肪酸レベルを低く保つことにより癌発生をも抑制できることが判明した.今後,がん治療,がん予防の分野において脂肪酸合成の抑制が重要な因子となりうると考える.
著者
福永 哲 李 賢哲 小林 敏之 折田 創 波田野 琢
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

虫垂切除によりパーキンソン病 (PD)の発症率を下げる可能性が報告されてから、虫垂切除に対する議論がなされている。PDと腸管との関連も注目されており、腸からαシヌクレイン(AS)シードが迷走神経を介して脳へ伝播するが、虫垂はASが凝集し易く、切除することでASシードが減少し発症率を下げるという可能性が指摘されている。近年慢性炎症とそれに伴う腸脂質代謝の変化は癌化や神経変性などに関与すると指摘されており、ASの異常集積に影響を及ぼす可能性を想起した。そこで本研究では、慢性虫垂炎症例におけるASシードを測定し、構造や蓄積過程を観察し炎症や脂肪酸代謝との関連を検討する。
著者
丹羽 浩一郎 佐藤 浩一 杉本 起一 伊藤 智彰 折田 創 櫛田 知志 櫻田 睦 前川 博 坂本 一博
出版者
日本腹部救急医学会
雑誌
日本腹部救急医学会雑誌 (ISSN:13402242)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.1005-1011, 2013-09-30 (Released:2014-01-10)
参考文献数
14

要旨:大腸穿孔の成因と治療成績,および予後予測因子について検討を行った。過去17年間に当院で緊急手術を施行した大腸穿孔182例を対象とした。死亡例は38例(死亡率:20.8%)であった。穿孔原因別に救命群と死亡群の2群に分けて検討した。大腸穿孔の原因として憩室(44.0%),大腸癌(30.2%),特発性(8.2%)の順に多かった。憩室,大腸癌を原因とする大腸穿孔では,多変量解析でAPACHIIscoreが独立した予後予測因子であった(それぞれp=0.002,p=0.038)。憩室を原因とする大腸穿孔では,APACHIIscoreが20点以上で死亡率85.7%と有意に高く(p<0.0001),また大腸癌を原因とする大腸穿孔では,APACHIIscoreが18点以上で死亡率75.0%と有意に高くなった(p<0.0001)。各症例の重症度を評価し,治療戦略を立てる際には,APACHEIIscoreが指標になる可能性が示唆された。