著者
山本 昌宏 代田 健二 斉藤 宣一
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

逆問題に対して、再生核ヒルベルト空間ならびに多重スケール核に基づいて、多次元の任意形状をもつ領域における数値解析手法の研究と開発を目指したが、この方法は正則化手法と密接に結び付いており、また離散化のためには有限要素法などを駆使しなくてはいけないことが、より鮮明になり、その方面の研究を進めた。実績は以下のとおりである。(1)相転移問題や熱伝動現象で初期値を決定する逆問題などの応用逆問題で上記の着想に基づいた数値解析手法を開発し、成果として公表した。(2)再生核ヒルベルト空間の手法をチホノフの正則化に適用した場合の近似解の安定性・収束の理論や正則化パラメータの最適な選択原理の講究を実施し、成果を出版した。逆問題個有の不安定性があり、データの微小変動に対して逆問題の解の偏差が極めて大きくなる可能性があるが、そのために正則化の数値計算のためには必要な離散化には特別の注意が必要である。すなわち、逆問題の数値解の精度をあげるために離散化を細かくしていくと、逆問題自体の不安定性からしばしば精度が悪くなる。そこで、逆問題の数値解法においては、要求されている解の精度の範囲において離散化の精度を適宜コントロールすることが必要不可欠である。これへの1つの解答を与えた。該当年度においては正則化法に有限要素法を用いて安定な数値解法を提案し、論文を完成させ公表した。(3)また、継続中の課題としては、再生核ヒルベルト空間の1つの数値手法である多重スケール核の方法の逆問題への応用についての研究があるが、これまで得た成果を本萌芽研究での知見を活用して将来的に大きく発展させる素地ができたと判断している。