著者
斧出 節子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.46-46, 2001-08-20 (Released:2009-09-03)

本書は, 社会保障改革においては少子・高齢化が進行するなかで家族と世帯の変容はますます重要な視点になりつつあるとの認識から, 家族・世帯の変容と社会保障政策の関係を事実に基づいて把握しようとしたものである。そのために, 平成元年から平成7年までにわたる「国民生活基礎調査」の個票から, 個有名詞などの情報を削除したミクロデータを再集計し, 解析を試みている。本書は15章と付録から構成されており, 第1章は本書の目的と研究経緯・概要について述べられている。第2章では社会保障を考えるうえでの基礎となる家計の国際比較がなされ, 第3章~第6章においては, 全世帯を対象に家族と世帯の変容を, 世帯構造・家族のライフサイクル・所得・健康状態を視点に分析が行われている。そして, 第7章~第14章においては, ライフサイクルのなかでも所得保障や医療・介護政策の影響が最も現れやすい高齢者個人と高齢者世帯を対象に, その実態と社会保障の機能に関する分析が行われている。第15章では各章の成果から社会保障政策へのインプリケーションが示され, 付録には「国民生活基礎調査」の平成元年から平成7年までの調査票を再集計して構成した疑似パネルデータの内容が紹介されている。一般に公表されている国レベルの調査結果は, 日本全体の概況を捉えるには有益であるが, 一方で, データにはどのような生活のリアリティが潜んでいるのだろうかという歯がゆい思いを抱かせる。その意味で本書は, 経済学的・統計学的な深い専門知識を読者に要求するものの, 大量データから緻密な生活状況を描写してくれる稀有な著書である。高齢者世帯に関連した知見をいくつか紹介してみると, 高齢者が子夫婦と, また, 子夫婦が親との同居を高める要因については, 低所得や要介護という要因が認められている。「子との同居は低所得, 要介護といったリスクに対して高齢者の生活を保障するための家族の役割は依然機能して」おり, 近年の同居率の低下から生活保障政策の重要性が今後ますます高まると指摘されている (第8章) 。また, 高齢者の経済的地位について言及したものでは, 疑似最低生活基準 (PA基準) を用いることで, 高齢者のなかでもとくに65歳以上の女性単独世帯で経済的地位の低いことが明らかにされている (第10章) 。さらに高齢在宅要介護者の発生が家計に与える影響を分析したものでは, 「要介護度の上昇は直接の介護支出を増加させるのではなく, 介護者の機会費用の上昇という形で家計を圧迫する」とし, 介護保険の現金給付問題に関する重要な論点を投じている (第13章) 。「『家族』はそもそも家族成員・個人の『生活保障』をどの程度担えるのか」という問いが, 家族社会学においても大きなテーマとして扱われてきた。生活保障は「お金」と「家事・サービス」という2本柱から成るが, 「お金」の問題とともに誰がどの程度「家事・サービス」を担うのかというもう一方の問題も含めて, 本書が提供している知見を検討し, どのような社会保障政策が望まれるかをさらに議論していくことが必要であろう。
著者
木脇 奈智子 斧出 節子 冬木 春子 大和 礼子
出版者
羽衣国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

私たちの研究グループは、本調査に先立って、平成13年度・平成14年度にも、文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C)(1))を受け「育児におけるジェンダー関係とネットワークに関する実証研究」と題した大量アンケート調査を実施した。平成13年度調査では、マクロで見た場合の現代日本家族の子育ての特徴を明らかにした。その後私たちは大量調査ではすくいあげることができなかった個々の親たちの本音に迫りたいと考えた。また、平成13年度調査では分析の対象にできなかった単親家族、共働き家族、再婚家族、父親が育児休業を取得した家族など、近代家族を超える家族の子育てについても、取り上げ分析したいと思った。このような問題意識から実施したのが本調査である。平成16年5月に本調査に着手し、初年度には研究会を重ねて先行研究の検討と質問項目を作成した。平成17年3月から平成18年3月まではインタビュー調査と分析を行った。その結果母親22名、父親10名、計32名に生育歴や育児観、家事育児分担、ジェンダー観などそれぞれ1時間半におよぶインタビュー結果を得ることができた。対象者は当初平成13年度調査において「インタビュー調査に協力してもよい」と答えて下さった方々としたが、対象者の多様性を持たせるために、知人の紹介で関西圏に居住する共働きのご夫婦や単親家庭、再婚家庭へ対象者を拡げ、その結果を報告書冊子にまとめた。報告書は6章からなり、1章「調査の目的と方法」、2章「男性の子育てと仕事との葛藤」3章「専業主婦の子育て分業意識・子育て観」4章「家事・育児の外部化」、5章「定位家族体験と親子関係」6章「男性にとっての家事・育児とはなにか」となっている。夫婦で(別々に)インタビューを行っているカップルが多く、子育てや家事に関する男女の意識の違いやズレが明らかになった。