著者
新沼 星織
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.21-36, 2009 (Released:2010-02-24)
参考文献数
17
被引用文献数
3 6 2

本稿では,「限界集落」に分類される東京都西多摩郡檜原村のM集落を対象に,集落機能の維持水準と住民の生活問題との関係を明らかにし,実態に即した課題への対応策について考察した.その結果,M集落では別居子らの転出者により集落機能の大半が維持されており,人口減少と高齢化が集落機能ならびに住民生活の限界化に直結しないことが明らかとなった.ただし,転出者による補完が不可能な領域として土地・住宅の所有と管理に関する問題が指摘された.このことは,条件の不利な居住地に在住する高齢者の地域内転居を阻み,地域での生活継続を妨げる大きな障害となっていた.この点において,集落機能の低下と住民生活の困難化との相互関連が示唆された.ゆえに,同様の問題を抱える集落では,行政の対応として福祉目的による空き家の利活用が検討されるべきである.一律の数値基準により定義される「限界集落」もその性格は多様であり,今後は集落状態に即した対応が必要とされるであろう.
著者
新沼 星織 宮澤 仁
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.214-226, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

本稿は,2011年の東日本大震災による医療機関への津波被害について,① その地域的特徴を分析し,② 被災患者の内陸部医療機関への搬送状況を検討した。① では,岩手県と宮城県を対象に分析した結果,診療所は中心市街地を沿岸部に形成する岩手県三陸南部地域から宮城県仙台湾地域の北部にかけて浸水率が高く,病院は大規模県立病院の高台立地傾向が強い岩手県より,小規模な市町立病院と民間病院を沿岸部に構える宮城県で浸水率が高いことが明らかとなった。そして ② では,医療機関の浸水率が高かった宮城県南三陸町に注目した調査の結果,隣接する登米市内の医療機関へは,外来診療患者は相当数搬送されていたものの,入院患者の搬送は,病床不足のため限定的であったことがわかった。このことは,平時より縮減体制にある医療システムは,災害時の脆弱性を増大させる可能性を示唆している。