著者
宮澤 仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.69-85, 2010 (Released:2010-04-06)
参考文献数
26
被引用文献数
4 3

本研究では,介護保険の開始以降,民間事業者により急増をみてきた有料老人ホームの立地特性を全国と都市圏の二つのスケールで分析し,供給の拡大要因について地理学的観点から考察した.その結果,近年,有料老人ホームは大都市を中心に供給され,特に東京大都市圏には全国定員の約4割が集中していることが明らかになった.そこで,東京大都市圏を事例地域に分析したところ,有料老人ホームは既成市街地に立地する傾向とともに,供給量と入居費用には大きな地域差が確認された.また,供給量とニーズの関係は弱く,むしろニーズの大きな地域で入居費用が高いことや,企業のリストラにより閉鎖された社員寮等を転用した施設が多数みられ,その多寡が地域的な供給量を左右したことが明らかになった.以上の結果から,(1)有料老人ホームの供給は,不動産流動の活性化といった経済動向の影響を受けやすいこと,(2)有料老人ホームは,近年の急増によりはからずも行き場のない高齢者の受け皿となっているが,入居費用には大きな地域差がある,といった問題点が指摘される.特に後者の問題に関しては,生活困窮高齢者の周縁化を社会的-地理的に強化しかねないことが危惧される.
著者
畠山 輝雄 中村 努 宮澤 仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.486-510, 2018 (Released:2018-11-28)
参考文献数
19
被引用文献数
5 9

本稿は,ローカル・ガバナンスの視点から,地域包括ケアシステムに空間的・地域的なバリエーションをもたらす要因を考察するとともに,バリエーションごとの特徴と課題を抽出した.地域包括ケアシステムにバリエーションが生じる要因の一つには,自治体の人口規模の差異があり,それは地域包括支援センターの設置ならびに日常生活圏域の画定に関する基準人口によるものであるとわかった.小規模自治体では,単一の日常生活圏域における地域ケア会議を中心に集権型のローカル・ガバナンスとなる一方で,人口規模が大きくなるほど自治体全域と日常生活圏域の重層的なローカル・ガバナンスによる地域包括ケアシステムが構築される傾向にある.後者は,地域包括支援センターが日常生活圏域単位に複数配置される自治体において,各地域の特性を考慮した分権型のローカル・ガバナンスを統括するための自治体全域でのガバナンスが重視された結果である.
著者
宮澤 仁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.133-156, 2004-03-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
39
被引用文献数
5 2

本研究では,多摩ニュータウンの早期開発地区を対象地域に,外出時に障壁に直面した下肢不自由者が,活動機会へのアクセスを確保するため用いる行為の実効性について考察した.その結果,被調査者は一様に,対象地域に遍在する高低差を障壁と認識する一方,建造環境の改変や有効な移動・交通手段の使用,他者が提供する介助の享受により,アクセスを確保していた.ただし,それらの実効性は,場所や財の所有関係,家族の形成段階や社会関係,地域生活の知識に条件付けられていた.特に,階段室式中層集合住宅が卓越する対象地域では,その居住者が受障後に自宅の出入りの問題を改善しようとすると長距離の転居が発生し,アクセス確保に寄与する既成資源が無用化される可能性が高まる.しかし,現住居にとどまるならば,自宅の出入りの問題が継続する.このようなジレンマ的状況を解決できず,生活空間の断片化を余儀なくされた場合,身体の障害が生活実現の剥奪に帰結する危険性が高まるであろう.
著者
宮澤 仁 阿部 隆
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.13, pp.893-912, 2005-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
5 23

本稿は,国勢調査の小地域集計結果の分析から,1990年代後半の東京都心部の人口回復に寄与した住民の特性ならびに人口増加地区における住民構成の変化を明らかにした.その結果,この時期にアフォーダビリティに関して多様な条件の住宅が供給された東京では,特定の属性の住民のみが都心居住を可能にしたわけではなく,特定の町丁へ転入した住民は,家族構成と社会階層に応じて居住地・住宅を選択していた.このことは,都心部の居住地構造にミクロスケールの量的・質的変化を生じさせ,短期間にその不均一性を高めたと考えられる.この不均一性の高まりに伴い発現する都市の新たな現象や社会問題の解明に取り組むことが今後の課題である.
著者
宮澤 仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.6, pp.547-566, 2012-11-01 (Released:2017-11-16)
参考文献数
48
被引用文献数
3 3

本研究では,長崎市を事例地域に地域密着型サービスの介護事業所が取り組む地域交流・連携の実態を明らかにした.まず,外部評価報告書の内容を分析した結果,事業所から地域社会に積極的に働きかけるタイプの取組みに地域差が確認された.全体の傾向として事業所は,所在地の自治会をパートナーとして交流・連携に取り組むことでさまざまな効果を享受していたが,そこにも地域差が存在した.次に,その要因として①地域の環境条件と②事業所の運営方針を想定し,交流・連携に積極的な姿勢を示す複数の事業所と地域社会を調査した結果,各事業所はそれぞれの運営方針を反映した交流・連携の必要動機をもっていること,その実践形態には地域の環境条件が踏まえられていることが明らかとなった.このことは,地域交流・連携の深化には事業所の姿勢や体制を整えるとともに,地域の特性に配慮した交流・連携手法の採用が重要になることを示唆している.
著者
宮澤 仁
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.59-80, 2003-02-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
28
被引用文献数
16 17

本稿では,関東地方における介護保険サービスの地域的偏在を統計データの分析から検証し,その形成要因に想定されるサービス事業者の参入行動を考察した.その結果,介護保険が企図する営利企業の参入は,それが容易な福祉系訪問型サービスの中でも,介護職員の巡回移動との関連で採算確保が期待できる都市部に集中し,同サービスが大都市に偏在する要因になっていた.他方,山間部の小規模町村には社会福祉法人でさえ参入が消極的で,公益性の高い社会福祉協議会が福祉系の訪問型・通所型サービスを中心に提供事業を担っていた.しかし,社会福祉協議会も採算性重視の事業を強いられており,事業者競争や経営合理化に長けた医療機関の中には,事業の安定化を目的に福祉と医療の事業複合体を形成する事例が関東地方東部に多数確認された.それらの結果は,介護保険の下,サービス提供事業に採算性が重視されている状況を裏付けるものであろう.ゆえに,サービス事業の経営を地域の諸条件と関連付けて詳細に分析することが,介護システムの今後を占うために必要とされる.
著者
新沼 星織 宮澤 仁
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.214-226, 2012 (Released:2012-10-25)
参考文献数
13
被引用文献数
2 4

本稿は,2011年の東日本大震災による医療機関への津波被害について,① その地域的特徴を分析し,② 被災患者の内陸部医療機関への搬送状況を検討した。① では,岩手県と宮城県を対象に分析した結果,診療所は中心市街地を沿岸部に形成する岩手県三陸南部地域から宮城県仙台湾地域の北部にかけて浸水率が高く,病院は大規模県立病院の高台立地傾向が強い岩手県より,小規模な市町立病院と民間病院を沿岸部に構える宮城県で浸水率が高いことが明らかとなった。そして ② では,医療機関の浸水率が高かった宮城県南三陸町に注目した調査の結果,隣接する登米市内の医療機関へは,外来診療患者は相当数搬送されていたものの,入院患者の搬送は,病床不足のため限定的であったことがわかった。このことは,平時より縮減体制にある医療システムは,災害時の脆弱性を増大させる可能性を示唆している。
著者
宮澤 仁
出版者
一般社団法人 人文地理学会
雑誌
人文地理 (ISSN:00187216)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.235-252, 2006 (Released:2018-01-06)
参考文献数
39
被引用文献数
2

The rapid aging of the Japanese population is giving rise to concerns that it will cause the national economy to decline due to a rise in the social security burden, a view that could be expressed as “social security is a burden on economic growth.” On the other hand, the emergence of a giant “silver” market and the growth of the service industry in response to the large rise in the number of elderly persons are to be expected. In particular, it is hoped that new jobs will be created through the growth of labor―intensive social services, thereby alleviating unemployment. In this manner, the relationship between the burdening and the beneficial effects of social security has become a major issue in the rapidly aging Japanese society. This study aims to elucidate the relationship between social security and regional economies and examines the effect of social security on local revitalization by taking up the case of regional planning for health and welfare promotion in Nishiaizu Machi, Fukushima Prefecture, in the form of a program called “Regional Planning for Total Care.” This regional planning program was launched in the mid―1980s to stem the rise in medical expenses, with a particular focus on health promotion activities. While health promotion can go a long way toward reducing the need for nursing care, the emergence of significant numbers of elderly persons requiring nursing care is inevitable, and thus the socialization of nursing care is also being implemented as part of regional planning. The results of this study are summarized below.The regional planning program has produced considerable results in terms of improving social infrastructure, promoting job creation, and spurring consumption. The jobs created in organizations associated with this regional planning program represent 5.8% of total employment in Nishiaizu Machi, with social welfare corporations accounting for a significant share of newly―created jobs through their employment of large numbers of professional workers. These organizations and their employees have also created consumer demand in the local economy amounting to as much as 500 million Yen, which is equivalent to 9.4% of annual retail sales in Nishiaizu Machi. In addition to such economic effects, the regional planning program has contributed to the development of diversified human resources by winning the cooperation of academic experts and central government bureaucrats, by promoting the hiring of experienced health and social care workers by the government and affiliated organizations, and by fostering the development of many semi―experts among residents through training programs. Educational campaigns for health promotion are carried out for residents through the use of such specialized manpower. These activities are effective in terms of promoting more healthy eating habits, preventing diseases, and increasing the average life expectancy of residents, and, as a result, are helping stem the rise in medical expenses. These positive achievements in terms of health promotion have been highly commended by various Ministries and academic societies, and have been publicized throughout Japan through academic journals and magazines. Local residents also have a high regard for these health promotion activities and their appreciation has helped forge Nishiaizu Machi’s identity as “the town of health promotion.”These economic effects and the associated development of human resources have contributed to revitalizing the regional economy and community of Nishiaizu Machi, an underpopulated municipality situated in a peripheral area.(View PDF for the rest of the abstract.)
著者
宮澤 仁
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.44-57, 1996-03-31

本稿は, 長崎県五島列島の岐宿町を事例にして, 離島における消費者購買行動の考察を目的とした. 岐宿町における購買行動調査から, 低次財ほど岐宿町内で購入され, 高次財になるにつれ福江市内へ購買先が移る傾向がみられた. また, 離島という地理的な位置を反映した特徴として, 時間的・経済的制約をともなう島外都市での購買が高級品に関して顕著にみられた. さらに, 衣服類の購買に通信販売を利用する世帯が多かった. このような岐宿町における購買行動を規定している要因を数量化II類によって検討した結果, 購買機会の分布と女性の就業する産業が強く影響していることが明らかになった. 前者は, 福江島内の高次財の購買機会の少なさが影響していた. また後者に関しては, 女性の就業と他の生活活動との関係が認められ, 職業特有の就業時間や従業地, 自宅や従業地と購買先の位置関係などが購買行動に影響を与えている. 近年, 岐宿町内では高次財の購買が困難になっており, 福江市への依存傾向が強まっている. さらに, 島内での購買では十分な充足感が満たされない, または購買が不可能な財については, 購買を島外に依存せねばならない. その際には, 離島の「隔絶性」が大きな制約となっている. 通信販売の利用は, 購買のための時間不足と購買機会の減少に対処するための現実的な購買選択肢となっている.
著者
日野 正輝 富田 和暁 伊東 理 西原 純 村山 祐司 津川 康雄 山崎 健 伊藤 悟 藤井 正 松田 隆典 根田 克彦 千葉 昭彦 寺谷 亮司 山下 宗利 由井 義通 石丸 哲史 香川 貴志 大塚 俊幸 古賀 慎二 豊田 哲也 橋本 雄一 松井 圭介 山田 浩久 山下 博樹 藤塚 吉浩 山下 潤 芳賀 博文 杜 国慶 須田 昌弥 朴 チョン玄 堤 純 伊藤 健司 宮澤 仁 兼子 純 土屋 純 磯田 弦 山神 達也 稲垣 稜 小原 直人 矢部 直人 久保 倫子 小泉 諒 阿部 隆 阿部 和俊 谷 謙二
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

1990年代後半が日本の都市化において時代を画する時期と位置づけられる。これを「ポスト成長都市」の到来と捉えて、持続可能な都市空間の形成に向けた都市地理学の課題を検討した。その結果、 大都市圏における人口の都心回帰、通勤圏の縮小、ライフサイクルからライフスタイルに対応した居住地移動へのシフト、空き家の増大と都心周辺部でのジェントリフィケーションの併進、中心市街地における住環境整備の在り方、市町村合併と地域自治の在り方、今後の都市研究の方向性などが取組むべき課題として特定された。
著者
石川 義孝 宮澤 仁 竹ノ下 弘久 中谷 友樹 西原 純 千葉 立也 神谷 浩夫 杜 国慶 山本 健兒 高畑 幸 竹下 修子 片岡 博美 花岡 和聖 是川 夕
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

わが国在住の外国人による人口減少国日本への具体的貢献の方法や程度は、彼らの国籍、在留資格などに応じて多様であるうえ、国内での地域差も大きい。しかも、外国人は多岐にわたる職業に従事しており、現代日本に対する彼らの貢献は必ずしも顕著とは言えない。また、外国人女性や国際結婚カップル女性による出生率は、日本人女性の出生率と同程度か、より低い水準にある。一部の地方自治体による地道な支援施策が注目される一方、国による社会統合策は不十分であり前進が望まれる。