著者
平田 彰 木下 敦寛 村上 義彦 常田 聡 新船 幸二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

融液成長法によって育成される半導体単結晶の高品質化手法の開発・確立を目的として,融液内のマランゴニ対流現象を解明するため,次の研究を行った.まず,温度差に起因する界面張力差に基づく駆動力の増大に伴い,液柱内のマランゴニ対流が二次元層流から三次元層流を経て三次元振動流へと遷移することを明らかにし,その機構を詳細に解析した.具体的には,微小液柱実験装置を用いた地上及び微小重力実験により,微小重力場では,地上で観察された超安定領域が消滅することを明らかにした.また,マランゴニ対流に起因する液柱内の温度振動状態が,定常層流,周期的伸縮振動,周期的回転振動,準周期的振動,そしてカオス振動のいずれかに分類できることを明らかにし,温度振動状態を表すモデル式を提出した.このモデル式は実験結果とよく一致しており,このモデル式より,各振動状態の特徴を明確に表すことができた.また,これらの遷移プロセスは液柱の形状・体積や重力レベルなどに依存することを明らかにした.また,非定常数値計算コードを開発し,落下塔実験で生ずる1GからμGへの重力のステップ変化に伴う固液界面上の熱流束を解析した.得られた数値解析結果は,実験結果と良好な一致を示し,熱移動現象を充分に良く説明することができた.さらに詳細に検討した結果,液柱長さを代表長さとした無次元座標,流動の駆動力を表すマランゴニ数,流体熱物性を表すプラントル数を導入することにより,固液界面上の熱流束分布を統一的に評価し得る事を明らかにした.また,宇宙環境においても存在する残存重力が融液の不安定化に及ぼす影響を検討するために,拡散係数測定法のひとつであるLong Capillary法を模擬した数値計算も行い,融液内の対流発生と残存重力の関係を明らかにした.以上の成果は,融液内のマランゴニ対流現象の微細機構を明らかにしたものであり,融液成長法による育成単結晶の高品質化ための操作条件決定などに有益なものと考える.
著者
平田 彰 新船 幸二 桜井 誠人 常田 聡
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、単結晶育成時における温度差と濃度差に起因するマランゴニ対流の相互干渉機構を厳密に解明し,それに基づいたマランゴニ対流の抑制・促進等の制御手法を確立し,単結晶の高品質化手法を確立することを目的として研究を行っている。本年度は、前年度に引き続き,半導体単結晶育成の一つである水平ブリッジマン法によりInSb結晶成長実験を行い,初期融液濃度を変化させることにより温度差および濃度差マランゴニ対流が同方向に作用する系(促進系)と,互いに逆方向に作用する系(抑制系)の融液自由界面上の界面流速を測定した。その結果,抑制系においては,自由界面流れの方向が、融液から結晶方向(温度差マランゴニ対流による)及び結晶から融液方向(濃度差マランゴニ対流による)が同時に存在し,流動の淀み点(2方向の流れが衝突する点)が存在する場合があることが明らかになった。これは,同時に行った数値シュミュレーションからも同様の結果が得られた。さらに抑制系に関しては,航空機を利用した微小重力場においても実験を実施した。その際,放物飛行中の到達重力レベルを変化させ,自然対流が融液自由界面流れに及ぼす影響を観察した。その結果,本実験系においては,自然対流は表面流速にはほとんど影響を及ぼさないことが明らかになった。以上の結果から,結晶成長時の融液側移動現象が,自然対流よりも,結晶成長時の偏析現象に伴う濃度差マランゴニ対流に強く影響を受けることが明らかになった。