著者
秋葉 隆 日ノ下 文彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.111-118, 2013-01-28 (Released:2013-02-20)
参考文献数
5
被引用文献数
3

エイズ感染患者の透析医療の確保に関して透析施設のHIV患者受け入れの現状を把握し今後の対策の資料とするため調査を行った.全国の透析施設3,802施設にアンケートを発送,1,552通(回収率40.82%)を得た.透析を必要とするHIV陽性者の透析受け入れの経験のある施設は94施設(6.2%),経験のない施設1,434施設(93.8%)で,平成23年11月現在のHIV患者透析実施患者数は89名(60施設,各施設1~7名,1.48±1.12名)だった.この施設は今後も「受け入れる」が69施設,「難しい」23施設で74.2%の施設が今後も受け入れを継続するとの意向を示された.受け入れの経験がない医療機関の今後の方針は「紹介があれば受け入れる方針である」227施設(15.7%),「今後,受け入れを検討する」445施設(30.7%),「受け入れることは難しい」776施設(53.6%)と約半数が今後の受け入れの可能性を表明した.しかしながら,「受け入れがたい理由」として,「HIV陽性者専用のベッドが確保できない.」「HIV陽性者への対応手順が整理されていない.」「透析中に急変した際のバックアップ体制が得られるのか心配」などの懸念が高頻度に示され,公的な援助なしに民間施設がHIV患者を受け入れるには多くの難関があることが明らかになった.
著者
日ノ下 文彦
出版者
日本マイコトキシン学会
雑誌
マイコトキシン (ISSN:02851466)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.123-127, 2003-07-31
参考文献数
10
被引用文献数
1

マイコトキシンの一部は腎臓にも障害を及ぼすことが知られているが,最も有名なものがオクラトキシンである.これは,1950 年代にバルカン諸国からの報告が相次いだ腎・尿路系を侵す風土病で,65 年にWHOが正式に認定した Balkan endemic nephropathy(BEN)の原因物質と考えられている<sup>1,2)</sup>.BEN の病態は主として尿細管の変性・機能障害,間質の繊維化,糸球体の硝子化であり,やがて腎機能障害が進行して腎不全に陥るものである.しかも,BEN に陥った症例では腎盂や尿管に腫瘍が発生しやすいことも知られており,多発地域では無視できない大きな問題となっている.オクラトキシン以外ではチトリニンやルブラトキシン,フモニシン等が腎臓毒性を有するマイコトキシンとして報告されている.ヒトにおけるトリコテセンの腎毒性はまだ報告されてないものの,ニバレノール(nivalenol, 以下 NIV)やデオキシニバレノール(deoxynivalenol, 以下 DON)が腎障害を惹起することが動物実験で確認されているので,これまで得られた知見を中心に報告する.
著者
松村 実美子 今井 恵理 多田 真奈美 加藤 麻美 濱野 直人 佐々木 絵美 勝木 俊 勝馬 愛 柴田 真希 日ノ下 文彦
出版者
一般社団法人 日本透析医学会
雑誌
日本透析医学会雑誌 (ISSN:13403451)
巻号頁・発行日
vol.47, no.6, pp.387-393, 2014 (Released:2014-06-28)
参考文献数
29

症例は73歳女性. 69歳のとき腎硬化症による慢性腎不全のため, 腹膜透析を導入した. 73歳のときランソプラゾールの内服を開始し, 3か月後, 3回目の腹膜炎で入院となった. セファゾリンとセフタジジムを経静脈, その後腹腔内投与に切り替え計2週間投与し, 軽快退院した. 入院中に軟便であったが便Clostridium difficile抗原は陰性であった. 退院後から水様~泥状便が持続し, 外来にて便Clostridium difficile抗原陽性となり, 偽膜性腸炎の診断でメトロニダゾールを14日間内服した. その後も下痢は持続し, 食思不振, 炎症反応高値を認めたため, 精査加療目的に当科入院となった. 絶食・中心静脈栄養を開始した. 大腸内視鏡検査を施行し, 肉眼で上行結腸に炎症瘢痕を認めた以外は異常所見を認めなかったが, 直腸, 盲腸, および結腸の粘膜生検で粘膜表層上皮下にリンパ球浸潤を認め, Masson Trichrome染色で特徴的なcollagen bandの形成を認めたため, collagenous colitis (CC) と診断した. CCは慢性水様性下痢の原因として知られ, 本邦での報告数はまだ少ないが, 年々増加傾向にある. 原因は不明だが, 薬剤や自己免疫の関与などが考えられている. 本例では被疑薬であるランソプラゾールを休薬し下痢が消失したことから, その関与が考えられた. 透析患者は消化管出血のリスクが高いためプロトンポンプインヒビター (proton pump inhibitor : PPI) を内服していることが多いが, 文献上, 国内外において腹膜透析患者におけるCCの報告はなく, 慢性下痢の鑑別疾患の一つとして念頭におくことが重要であると考え, 報告した.