著者
日本海洋学会海洋環境問題委員会 日本海洋学会
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 = Umi no Kenkyu (Oceanography in Japan) (ISSN:21863105)
巻号頁・発行日
vol.11, no.6, pp.631-636, 2002-11-05
参考文献数
12
被引用文献数
8 3

有明海の環境悪化機構の解明とその問題解決のために,現時点で早急に実施が求められる調査課題をここに提案する。1.潮位・潮流の変化諫早湾堤防締め切りを始めとする沿岸開発によって有明海内部の潮位・潮流がどれほどの影響を受けたのか依然として明らかにされていない。この問題は有明海の生態系を考えるとき極めて重要な問題であり,早急に結論が得られるようにすべきである。2.水質浄化機能の喪失と負荷の増大諫早湾潮受け堤防締め切りによる浄化機能の喪失の影響と調整池の汚濁負荷源としての役割を明確にすることが肝要である。特に,第三者委員会が提案している中・長期開門調査はこれらの問題解決ばかりでなく,潮汐・潮流問題の解明のためにも必須である。3.ノリ不作と赤潮の発生ノリ不作と関連した赤潮の発生に関して様々な要因が提起されている。個々の要因を精査するとともに,有明海への栄養塩負荷量の増大や組成比の変化及び潮流変化など諫早湾干拓事業を含めた総合的な解析が必要である。4.貧酸素水塊の発生汚濁負荷量の増加や潮流の減少などにより大規模な貧酸素水塊の頻発化が危倶される。汚濁負荷の影響の強い諫早湾における貧酸素水塊の形成機構とこの貧酸素水塊が有明海全体に及ぼす影響解明が必要である。5.底質の変化諫早湾の堤防近傍を中心に底質の細粒子化・浮泥の堆積が報告され,有機汚濁の進行が認められる。底質の変化は貧酸素水塊の形成,潮汐・潮流問題,二枚貝の漁獲量の減少などにも深く関連した問題であり広範囲にわたる調査が重要である。6.有明海の物質循環過程有明海の生態学的特徴を明らかにして,環境悪化を克服する方策を得るために,陸,干潟,海域全体の変化を総合的・長期的に解析した有明海の物質循環過程の解明が急務である。
著者
日本海洋学会海洋環境問題委員会
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.14, no.5, pp.601-606, 2005-09-05
被引用文献数
1

2001年, 日本政府は都市再生プロジェクト(第二次決定)において, 東京国際空港(以下, 羽田空港)の再拡張事業を選定し, 「国際化を視野に入れつつ羽田空港の再拡張に早急に着手し4本目の滑走路を整備する」方針を固め, 2002年6月, 「羽田空港を再拡張し, 2000年代後半までに国際定期便の就航を図る」ことを閣議決定した。4本目の新滑走路の位置を確定した国土交通省は, 2009年の完成を目指している。工期には約3年を要すため, 2006年春には着工の予定である。本事業の環境影響評価に関しては, 2004年11月28日に1か月間の環境影響評価方法書(以下, 方法書)の縦覧期間が終了し, 国土交通省は2006年の事業着工にむけ, 影響評価準備書(以下, 準備書)の作成段階に入っている。この事業計画は(図1), 羽田空港沖から多摩川河口域にかけて, 埋立と桟橋のハイブリッド構造の滑走路を建設するものである(図2)。こうした構造物の建設は, 東京湾の水域生態系に少なからぬ影響を与えることが考えられる。したがって, その環境への影響は時間をかけて慎重に論議され調査されなければならない。このことに照らせば, 方法書から準備書作成までの期間は, 環境影響評価を行うにはあまりにも短いように思われる。方法書に対する意見の提出期限(2004年12月13日)はすでに過ぎたが, 長年にわたり海洋の環境を調査・研究してきている日本海洋学会海洋環境問題委員会としては, 本事業の環境影響を最小限に止めることを切望し, 羽田空港再拡張事業における環境影響評価のあり方について特に見解を表明する次第である。