- 著者
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日比 美和子
- 出版者
- 東京芸術大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
本年度は、第1に、戦後の北米におけるピッチ・クラス・セット理論が、ほぼ同時代に展開されたそれと強い結びつきのあるシェンカー分析、変換理論、新リーマン理論、クランペンハウアー・ネットワーク、といった分析方法と、どのように互いに関係しながら理論的に展開されてきたのかを明らかにした。まず、ピッチ・クラス・セット理論及びクランペンハウアー・ネットワークと、シェンカー分析との関係について、階層構造及び多層構造の点において類似性が見られることを明確にした。また、ピッチ・クラス・セット理論とシェンカー分析との関係についてはイデオロギーの排除・中立的な理論である点において、変換理論とシェンカー分析の関係については変換理論の一部とシェンカー分析が持つ中景構造の意識という点において類似性を指摘することができた。(東京藝術大学音楽研究科、音楽文化学論集において発表。)さらに、新リーマン理論において跳躍を含む理論が異なるセット・クラスの比較を可能にしたことが、ピッチ・クラス・セット理論の弱点を補う結果となったことを明らかにした。第2に、ピッチ・クラス・セット理論を含め、上記のポスト調性理論(シェンカー分析を除く)のいくつかがそれ以前の音楽分析の手法とまったく異なるものとして見なされやすいことに対して、それらが西洋の理論の伝統に根ざしていることを示した。たとえば、新リーマン理論と調性理論の関係については、新リーマン理論におけるスライドSLIDEという概念とロシアにおいて調性音楽及び無調音楽分析の分野で用いられてきた共通三度という概念との類似性が挙げられる。ピッチ・クラス・セット理論とそれ以前の理論との関係については、組み合わせ可能性、Z関係、セット、音程の視点から19世紀後半及び20世紀初頭の著述家が発表した方法との類似性を指摘した。