著者
川口 洋 上原 邦彦 日置慎治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告人文科学とコンピュータ(CH) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1999, no.85, pp.17-24, 1999-10-15
被引用文献数
2

江戸時代の日本では,「宗門改帳(しゅうもんあらためちょう)」と総称される和紙に筆墨を用いて記録された古文書史料が,原則として集落ごとに毎年作成されていた。「宗門改帳」の保存状態がよい集落では,民衆生活の具体像を示す人口学的指標を長期間にわたって求めることができる。本システム構築の目的は,史料読解から人口学的指標算出に至る作業時間の短縮,研究過程の再現性の確保,古文書史料の保存,研究者間での史料と分析方法の共有の4点である。本システムは,「宗門改帳」古文書画像データベースと人口分析プログラムから構成されている。現在,福島県会津地方の4ヶ村,延べ約5万人分の個人情報がデータベースに登録されており,60項目にのぼる人口学的指標をグラフ表示することができる。インターネットを通じて本システムに接続することにより,情報検索,指標表示が極めて容易に実行できるだけでなく,文字データと古文書画像データを対照することにより,システム構築者の史料整理過程を利用者が再現,検討できる。The most important source data for the historical demography in Tokugawa Japan is the religious investigation register generally called Shumon-Aratame-Cho (SAC). As a general rule, they were recorded annually for over 150 years from the end of the 17^<th> century in villages and towns in most areas in Japan. We can obtain a great deal of information about family status including not only population statistics but also indices concerning real family lives. We have developed a demographic system for analyzing the SAC data. We call the system DANJURO ver.2.0. DANJUB0 is planned in order to make the process of outputting the demographic statistics from the SAC data easier and faster, to guarantee the quality of the process, to preserve the present condition of the SAC data and to share the source data and analyzing method with historical demographers. The system is composed of the image database of the SAC data and programs for outputting 60 items of demographic statistics and indicators. The URL of DANJUR0 is http://kawaguchi.tezukayama-u.ac.jp.
著者
川口 洋 上原 邦彦 日置 慎治
出版者
帝塚山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

寺院「過去帳」は、18・19世紀の人口現象を復原するうえで、「宗門改帳」と並ぶ基礎的史料である。本研究では、寺院「過去帳」から民衆の死亡構造をあらわす人口学的指標を計算するシステムを構築して、インターネットを通じて研究者間で共有できる研究環境を整備した。本研究で構築した「江戸時代における人口分析システム(DANJURO ver.3.0)」は、「過去帳」分析システムのほかに、既開発の「宗門改帳」分析システム、古文書文字の認識、関連サイトへのリンクなどから構成されている。「過去帳」分析システムは、「過去帳」データベース、「過去帳」分析プログラム、検索利用マニュアルから構成されている。本システムのURLは、http://kawaguchi.tezukavama-u.acjpである。現在のところ、「過去帳」データベースには、武蔵国多摩郡下の9ヵ寺と美作国真庭郡下の1ヵ寺の寺院「過去帳」に記録されている約27,000人の被葬者に関する情報が登録されている。本データベースのデータ項目は、寺院所在地、寺院名、宗教・宗派、史料名、死亡年(西暦)、死亡年月日(旧暦)、死亡年月日(新暦)、戒名、性別、小字名、俗名、死亡年齢、出生年(西暦)、生年月日(旧暦)、生年月日(新暦)、死因、死亡地、出身地である。「過去帳」分析プログラムを用いて、(1)被葬者数に関する指標…9項目、(2)年齢別死亡構造に関する指標…10項目、(3)死亡の季節性に関する指標…10項目、(4)死因などに関する指標…10項目、合計39項目の人口学的指標を利用者側コンピュータにグラフ表示することができる。
著者
川口 洋 上原 邦彦 日置 慎治
雑誌
じんもんこん2011論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, no.8, pp.117-124, 2011-12-03

本稿では,「過去帳」分析システムを用いて,寺院「過去帳」に流産・死産児が記録され始めた時期と法規との関係について検討する.「過去帳」分析システムは,「過去帳」古文書画像データベース,「過去帳」分析プログラム,検索利用マニュアルから構成されている.本システムには,18 ヵ寺における約4 万人の被葬者が登録されており,51 項目の死亡指標を表示することができる.神奈川縣などでは,明治13(1880)年から流産・死産の届出を義務付け,戸長の作成する埋葬承認証のない死屍の埋葬を禁止した.これにともない,寺院「過去帳」に流産や死体分娩などが明記されるようになり,流産・死産児などに孩子系,嬰子系,泡兒系,胎子系,水子といった戒名の位号を付けて供養する習慣が普及していったとみられる.