- 著者
-
早川 和江
- 出版者
- 一般社団法人 日本家政学会
- 雑誌
- 一般社団法人日本家政学会研究発表要旨集 63回大会(2011年)
- 巻号頁・発行日
- pp.84, 2011 (Released:2011-09-03)
目的 江戸時代,日本に初めて伝わったコーヒーは,その当時,薬としても飲用されており,津軽をはじめとする東北の藩士が北方警備のため蝦夷地に派遣された際,病による陣没者の減少に大きく貢献したといわれている.本研究ではこの点に着目し,藩士の飲用したコーヒーが健康に及ぼした影響の詳細について検討した. 方法 『天明の蝦夷地から幕末の宗谷』(稚内市教育委員会,2009年)を中心に,蝦夷地における藩士たちの生活事情を歴史的背景とともに把握し,現在までに明らかになっているコーヒーの成分や薬理作用に関連する文献・資料とあわせて考察した. 結果 蝦夷地での藩士たちを脅かしたのは寒さと浮腫病(水腫病)であった.この病は「腫レ出シ後心ヲ衝キ落命ニ至ル」といわれ,罹患した者の多くは死亡したという.現代でいえば脚気,または壊血病ではないかとされている.1803年に蘭学医・廣川獬が『蘭療法』の中でコーヒーには浮腫病に対する薬効があると説いているが,コーヒー抽出液には脚気,壊血病に有効な成分は含まれていない.一方,蝦夷地での藩士たちの生活は,厳しい寒さと多湿な環境に対して簡便すぎる住居と保温性の低い衣服や寝具,また偏った食生活のため栄養状態も悪く,藩士たちの多くが凍傷,低体温症を患っていたと推察される.これらの疾病は浮腫・むくみ・不整脈・心室細動といった症状を呈し,悪化すると致命率も高いなど浮腫病の症状と一致する.以上のことから,ここでいうコーヒーの薬効とは,コーヒーに含まれるカリウムの利尿作用,またナイアシンの血流改善効果などを指すと考えられ,浮腫病の予防,症状緩和という点において藩士たちの健康維持に有効であったと結論づけられた.