著者
早川 美波 林 秀剛 岸元 良輔 伊藤 建夫 東城 幸治
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.245, 2013 (Released:2014-02-14)

ツキノワグマ Ursus thibetanusは,アジア広域に生息する中型のクマで,日本には,固有亜種,ニホンツキノワグマ Ursus thibetanus japonicusが,本州と四国に生息している.中でも,本研究の対象地域である長野県は,日本アルプスを含む中部山岳域に囲まれていること,長野県におけるツキノワグマの推定生息数が約 3600頭 (長野県 2011年) であることからも重要な生息地の 1つであると考えられる.一方,長野県には独立した山塊がいくつかあり,盆地には都市が広がっているため,ツキノワグマの生息地が必ずしも連続しているとは言えず,また,山塊間の移動の程度や遺伝的多様性の評価などの研究が十分行われていないことから,一概にも安定した個体群が維持されているとは言えない.本研究では,2006年から 2012年に捕獲されたツキノワグマ約 200個体を用いて,mtDNA制御領域 626-bp及び,核 DNA MHC クラスター Ⅱベータ遺伝子 2領域 270-bpを解析し,長野県ツキノワグマ個体群における遺伝的構造の究明を行った.  mtDNA制御領域の解析では,12のハプロタイプを検出した.ハプロタイプの地理的分布から,長野県の北部と南部では解析した個体から検出されるハプロタイプが異なったため,長野県の北部と中南部間での遺伝子流動,すなわちツキノワグマの移動分散が起きていない,あるいは非常にまれであることが示唆された.