著者
星野 幹雄
出版者
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

小脳をモデル系として、神経幹細胞アイデンティティの時空間制御機構について調べた。小脳菱脳唇の神経幹細胞ではAtoh1が、小脳脳室帯の神経幹細胞ではPtf1aが発現し、その部位での空間アイデンティティを規定することで、それぞれ興奮性神経細胞と抑制性神経細胞を生み出す形質を与えられているということを明らかにした。また、小脳脳室帯の神経幹細胞は、最初にプルキンエ細胞産生神経幹細胞であったものが、その後抑制性インターニューロン産生型神経幹細胞へと形質を変えることを見いだした。その過程では、転写因子Olig2とGsx1が関与することも見いだした。
著者
星野 幹雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S26-5, 2019 (Released:2019-07-10)

男性と女性では脳の構造や機能に生まれつき差異があり、その差異を出発点とし、成長を通じてものの考え方や立ち居振る舞い、嗜好などに違いが現れる。ヒトを含む哺乳類の脳は「臨界期」と呼ばれる時期にテストステロン刺激を受けると男性化し、その刺激を受けないと女性化することが知られている。しかし「臨界期」以前の脳の性分化機構についてはよくわかっていなかった。 われわれは、膵臓や小脳の発達に関わるPtf1a遺伝子が「臨界期」より遥かに前の胎児期において視床下部と呼ばれる脳領域の神経前駆細胞で発現することを見出した。その領域でPtf1a遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製したところ、その脳は「臨界期」にテストステロン刺激を受けても男性化できず、その一方でテストステロン刺激を受けない場合でも女性化できないことが観察された。このことから、(1)脳の性分化(男性化または女性化)のためには、「臨界期」以前に「性分化準備状態」になる必要があること、そして(2)胎児期の視床下部Ptf1aが脳を「性分化準備状態」へと導き、その後の「臨界期」でのテストステロン刺激・非刺激によって男性脳・女性脳へと性分化させるということが明らかになった。 これまでにも脳の性分化に関わる遺伝子はいくつか報告されているが、Ptf1aはそれらの中で最も早く働く最上流遺伝子であり、脳の性分化の最初期段階を明らかにしたと考えている。