- 著者
-
柏木 宏子
- 出版者
- 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2016-04-01
SAPROF日本語版の予測妥当性と評価者間信頼性の後方視的コホート研究の結果を英文誌に論文発表した。対象は、2008年4月から2012年11月までに、国立精神・神経医療研究センター病院の医療観察法病棟に入院した対象者の中で、入院期間が1年以上の者とした。SAPROFは、入院後2週間の診療録、医療観察法鑑定書、生活環境調査書をもとに評価した。入院後6カ月間および1年間の暴力の発生の有無を診療録で調査した。この他、評価者間信頼性を調査するため、二人の評価者が30名の対象者を評価した。解析は、暴力の予測妥当性については、ROC曲線を、評価者間信頼性はICCにて解析した。結果は、95名が参加(男性83名)、診断は統合失調症圏が73.7%であった。対象行為(入院のきっかけとなった他害行為)は、殺人、傷害、放火の順で多かった。6カ月以内に、11名、1年間に17名の暴力が見られた。SAPROF日本語版の評価者間信頼性は、SAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて中等度から良好との結果が得られた。また、SAPROF日本語版のSAPROF総得点、内的要因、動機付け要因、外的要因、最終判断のそれぞれにおいて、6ヶ月後と12ヶ月後の暴力の発生がないことへの高い予測妥当性が得られた。本研究で得られた結果は、暴力のリスクアセスメントにおいて、本人の強みとなる部分、すなわち保護要因に着目することの妥当性が示されたとともに、海外との比較において重要な資料を提供できる。今後は、通院対象者や、刑務所、一般精神科などの別の集団におけるSAPROFの予測妥当性を確かめることが必要である。