著者
菅野 純 梅田 ゆみ 鈴木 正明 武田 知起 後藤 裕子 山野 荘太郎 平井 繁行 竹内 哲也 高橋 祐次
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S6-4, 2019 (Released:2019-07-10)

架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物(以下、ポリマー)の包装作業に従事した労働者6名が肺繊維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等を発症した事から、2017年4月に、同種事案の防止のため、厚生労働省労働基準局安全衛生部からプレスリリース(1,2)があった。6名は曝露開始から2年前後の短期間に発症し、年齢は20代~40代であった。このポリマーは、アクリル酸を直鎖重合し、更に網目状に架橋した巨大分子で、一次粒子はナノ粒子の定義に該当すると考えられる。外観は白い微細粉末である。肺に対する毒性文献情報は確認されていない。吸湿吸水性が高く難分解性で、消化管から吸収されず経口毒性は殆ど無いとされる。 ここでは、当該ポリマーの肺毒性の成立過程と発生機序の解明を目的とした研究のうち、ラット及びマウスの肺曝露実験の中間報告を行う。曝露経路は、ポリマーが惹起する生体反応の概略を把握する目的での気管内投与(IT)、ヒトで生じた肺病変の成立過程と発生機序と定量的用量作用関係を明らかにする目的でのTaquann直噴全身曝露吸入(WB)の二通りを採用した。IT検体(1.5g/L)は懸濁し光顕下で細菌大の粒子を認めた。単回IT(ラット100~300μg/匹、マウス15~45μg/匹)の直後より(分布に偏り大)ポリマー貪食マクロファージ(PLMφ)の崩壊像と共に肺胞内に強い炎症細胞浸潤を認め、1週に最大となり4週に向けて減弱した。それに交代して肺胞内PLMφ集簇巣形成、Ⅱ型肺胞上皮の増加(TTF1、Tm4sf1 陽性反応性過形成)の出現を認めた。以上、ポリマーの肺胞内半減期は長く組織反応を伴う炎症の遷延を認めた。IT反復26週観察、及び、全身曝露吸入の結果を合わせて報告する。1.https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11305000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu-Kagakubushitsutaisakuka/0000163637.pdf2.同/0000163635.pdf
著者
星野 幹雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S26-5, 2019 (Released:2019-07-10)

男性と女性では脳の構造や機能に生まれつき差異があり、その差異を出発点とし、成長を通じてものの考え方や立ち居振る舞い、嗜好などに違いが現れる。ヒトを含む哺乳類の脳は「臨界期」と呼ばれる時期にテストステロン刺激を受けると男性化し、その刺激を受けないと女性化することが知られている。しかし「臨界期」以前の脳の性分化機構についてはよくわかっていなかった。 われわれは、膵臓や小脳の発達に関わるPtf1a遺伝子が「臨界期」より遥かに前の胎児期において視床下部と呼ばれる脳領域の神経前駆細胞で発現することを見出した。その領域でPtf1a遺伝子を破壊したノックアウトマウスを作製したところ、その脳は「臨界期」にテストステロン刺激を受けても男性化できず、その一方でテストステロン刺激を受けない場合でも女性化できないことが観察された。このことから、(1)脳の性分化(男性化または女性化)のためには、「臨界期」以前に「性分化準備状態」になる必要があること、そして(2)胎児期の視床下部Ptf1aが脳を「性分化準備状態」へと導き、その後の「臨界期」でのテストステロン刺激・非刺激によって男性脳・女性脳へと性分化させるということが明らかになった。 これまでにも脳の性分化に関わる遺伝子はいくつか報告されているが、Ptf1aはそれらの中で最も早く働く最上流遺伝子であり、脳の性分化の最初期段階を明らかにしたと考えている。
著者
吉留 敬
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S12-3, 2019 (Released:2019-07-10)

以前に不整脈治療薬であるフレカイニドの過剰摂取による死亡が疑われた事例を経験し,生前の血中薬物濃度と死体内の薬物濃度の比較を行うことができた。その際,死後の左心血中のフレカイニド濃度は,生前血の17.7倍という著しく高い値を示していた。そこで,動物を用いた実験などを行うことで,フレカイニドは死後その心臓血中濃度,特に左心血中濃度が上昇すること,また,この上昇の原因が,フレカイニドの著名な肺への蓄積と死後の血液の酸性化であることを明らかにした。 ところで,覚せい剤であるメタンフェタミンは心臓血中濃度が死後上昇することが以前より知られており,覚せい剤はフレカイニドと同様に塩基性の薬物であることから,その心臓血中濃度の死後上昇機構はフレカイニドと同様のものであると考えられた。そこで,覚せい剤の検出された剖検事例について,その末梢血中濃度と心臓血中濃度の比較検討を行い,血液の流動性などが,末梢血と心臓血中濃度に影響を与えていることを明らかとしてきた。 その後,死体の各種体液中の覚せい剤濃度の比較を行なったところ,胃内で著しく高濃度を示すことが明らかとなった。覚せい剤は法規制対象の薬物であり,乱用者はしばしば第三者によって飲まされたと主張する。そのような主張を生前にしていた場合,その摂取経路の特定は死者が生前に自ら静注により摂取したのか,それとも経口的に飲まされたのかを鑑別する上で重要なものとなる。そこで,動物実験および事例の検討を行うことで,覚せい剤の摂取経路の鑑別法の構築を行なっている。
著者
富永 サラ 金枝 夏紀 市丸 嘉 酒々井 眞澄 前田 徹 中尾 誠 藤井 広久 吉岡 弘毅
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-48S, 2019 (Released:2019-07-10)

【目的】クマザサ抽出液は健康食品や医薬品等で販売されており、近年関心が高まっている。また、抗炎症作用など様々な作用を有し、特に最近は乳がんに対する抗がん作用が注目されている。しかし、抗がん作用の機序や、その活性成分の存在などは明らかにされていない。そこで本研究では、クマザサ抽出液を用い、ヒト乳がん細胞株MCF-7細胞およびヒト肝がん細胞株HepG2に対する抗がん作用の検討と、クマザサの主要成分の1つとされる銅クロロフィリンナトリウム (SCC:0.25%含有)との関連を検討した。【実験方法】本実験ではクマザサ抽出液として株式会社サンクロンのサンクロン (SE) を使用した。(1) MCF-7細胞およびHepG2細胞に対して、SE (0.01-1000 µg/mL) またはSCC (0.25-2500 µg/mL) 処理24時間後の細胞増殖能を3H-チミジン取り込み法によって評価した。(2) SE (10-1000 µg/mL) 処理24時間後のMCF-7細胞を用い、蛍光染色によってアポトーシスを観察し、壊死関連タンパク (RIP1) および細胞周期関連タンパク (GSK-3α/β, Cyclin D1, Cdk1/2, Cdk6) 発現をウエスタンブロット法で測定した。【結果及び考察】(1) MCF-7細胞およびHepG2細胞に対して、SEには濃度依存的な増殖能の低下が認められたが、各SE濃度で含有されている量のSCCはがん細胞の増殖能を低下させなかった。以上のことより、SCC以外の成分が抗がん作用を示すと考えられた。(2) SE濃度依存的にアポトーシス細胞が増加したが、1000 µg/mLでは、RIP1の増加が認められた。また、Cdk1/2に変化は認められなかったが、GSK-3α/β, Cyclin D1, Cdk6はSE濃度依存的に減少した。このことから、中低濃度 (SE≤100 µg/mL) ではアポトーシスの誘導、高濃度 (SE≥1000 mg/mL) ではネクロトーシスの誘導による細胞死が引き起こされることが示唆された。今回はSEのみでの検討であるが、今後は活性成分の探索を行う。
著者
寺山 隼人 梅本 佳納榮 曲 寧 坂部 貢
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-134, 2019 (Released:2019-07-10)

ネオニコチノイド系農薬(NP)はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)へのアゴニスト作用によって害虫に対しては強い毒性を発揮するが、哺乳類には安全であるとされ世界中で汎用されている。しかし、近年、実験動物でNPが神経系、免疫系、生殖器系など様々な器官に悪影響を及ぼす事が報告されている。精巣内環境は思春期を境に精子・精子細胞が出現するため劇的に変化する。成獣雄マウスにNPを投与すると、血清テストステロンの低下や造精障害が報告されているが、幼若雄マウスにNPを投与した報告はない。そこで本研究は、幼若雄マウス(3週齢)にNPであるアセタミプリド(ACE)を投与し、精巣に与える影響を検討した。ACEを水道水に溶かし自由飲水させる実験(ACE1およびACE2)群、ACEを溶解している界面活性剤(DMSO)のみを水道水に溶かし自由飲水させるDMSO群、水道水のみ自由飲水させるUntreated群の4群に分け、180日後に精巣を深麻酔下で摘出し、形態学的および分子生物学的に評価した。その結果、180日後の体重は実験群で有意に減少したが、精巣の重量や組織に有意な変化はなかった。ステロイド合成系、増殖細胞因子、nAChRサブユニットのmRNA発現は実験群で有意に低下していた。ACE曝露は形態学的変化を誘導しない投与量でも、精巣内に蓄積し、遺伝子発現に様々な変化を及ぼすことがわかった。さらに、過去の文献と比較すると種差、ネオニコチノイド系農薬種、週齢において、かなり感受性の違いがある事もわかった。
著者
福山 朋季 渡部 優子 田島 均 田食 里沙子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S14-3, 2019 (Released:2019-07-10)

外来性エストロゲンは免疫機能に影響を及ぼす事が知られており、我々はこれまでに、幼若期の外来性エストロゲン曝露が成熟期のアレルギー病態を悪化させる事を証明した。しかし、外来性エストロゲンに関するこれまでの動物実験の報告は、胎児期ないし幼若期にエストロゲンを曝露し、休薬期間後の成熟期におけるアレルギー病態の増悪しか見ておらず、エストロゲン曝露とアレルギー病態増悪の直接的な因果関係は不明である。本発表では、我々が調査したエストロゲン曝露とアレルギー病態増悪の直接的な因果関係について概要を紹介する。In vivo実験では、Th2型ハプテン誘発皮膚ないし気道アレルギー炎症モデルのアレルギー惹起直前にPPT (エストロゲン受容体α (ERα) アゴニスト) およびDPN (ERβアゴニスト) を経口投与し、惹起後の皮膚ないし肺の炎症、痒み反応さらに各標的組織における免疫担当細胞数と炎症性サイトカイン産生量を測定した。In vitro実験では、ヒト角化細胞およびヒト気道上皮由来細胞株にPPTおよびDPNを24時間曝露し、免疫刺激後の炎症性サイトカイン産生量を測定した。結果、皮膚アレルギーモデルでは、皮膚の炎症反応および痒み反応がPPT曝露のみで増加したのに対し、気道アレルギーモデルでは、肺の炎症反応がPPTおよびDPNのいずれの曝露によっても増加した。TSLPやIL-33といった炎症性サイトカインも、皮膚アレルギーモデルではPPT曝露によってのみ増加したのに対し、気道アレルギーモデルではPPTおよびDPN曝露のいずれによっても増加した。In vitro実験においても、ヒト角化細胞はPPT曝露のみで炎症性サイトカイン産生量が上昇したのに対し、ヒト気道上皮細胞ではPPTおよびDPNいずれの曝露によっても炎症性サイトカイン産生量が増加した。以上の結果は、エストロゲン曝露がアレルギー病態悪化に直接的に寄与している事を証明していると同時に、皮膚アレルギーおよび気道アレルギーでは、依存するエストロゲン受容体が異なる可能性が示唆された。
著者
藤田 克英 丸 順子 遠藤 茂寿 小原 佐和枝
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S6-1, 2019 (Released:2019-07-10)

新素材として多様な応用が期待されるセルロースナノファイバー(CNF)の社会実装化を加速させるためには、CNFの安全性の評価が求められるが、その有害性試験手法が未確立である。ナノマテリアルの吸入影響に関する有害性評価として、げっ歯類を使った吸入暴露試験があるが、多大な費用と時間が必要となるため多くの被験材料について実施することは困難である。そのため、簡易な器具と少量の被験材料で実施可能であり、肺への投与量を厳密に設定できる気管内投与試験は、多様なCNFの吸入毒性試験として有効な手法と考える。しかしながら、CNFを被験材料とした気管内投与試験の報告はこれまでなく、また、CNFはゲルとゾルの中間的な性質を持ち、粘度が時間経過やせん断応力とともに変化する(thixotropy)ことから、適切な気管内投与手法の確立が必要と考える。本発表では、現在以下の目的に従い実施中のCNFの気管内投与手法の開発について紹介する。(1)スラリー状のCNFの物理化学的特性を損なわない状態で分散調製する技術を確立する。(2)気管内投与後、CNFの粘性等により、げっ歯類に窒息や行動異常などが引き起こされ、気管内投与後の適切な有害性評価ができない場合が予想される。このため、CNF試料を投与後、数日間のラットの状態を観察し、気管内投与が可能なCNF試料の濃度や投与条件を確立する。(3)気管内投与後の肺各葉でのCNFの抽出と分析を実施し、気管内投与後の肺に被験材料が一部に偏在せず、一様に分布することを検証する。本発表は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務「非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発/CNF安全性評価手法」の結果から得られたものである。