- 著者
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時本 真吾
- 出版者
- 目白大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2008
本研究は,発話理解の実時間モデルの構築を目標に,統語的情報,韻律,作動記憶制約の実時間相互作用を実験的に検討するものである。本研究の新知見は,(1)文内の依存関係決定処理において,韻律特性の一つとしての統語的休止(syntactic pause)は確かに効果を持っているが,統語的情報を覆すほど強くはないこと,また,(2)統語的休止の効果は処理負荷の低い文よりも高い文において顕著に現れること,(3)さらに作動記憶制約の影響は高負荷の文よりも低負荷の文について顕著に現れることである。本研究の知見は,統語的・音韻的制約の運用機序が,作動記憶容量を含む心的資源の大小によって変化することを示唆している。また,本研究は,作動記憶容量の大きな話者の方が小さな話者よりも言語処理効率が高いという通説に反し,大容量話者は低容量話者よりも文理解が正確だが,低容量話者よりも処理時間が長い傾向を見いだした。この知見は言語処理の効率性の議論に再考を促すものであり,作動記憶容量の大きな話者がより効率的な認知処理を実現するなら,なぜ作動記憶にこれほどの強い容量制限があるのかという理論的問題に進化心理学的解決の糸口を与えるものである。