著者
柴崎 秀子 時本 真吾 小野 雄一 井上 次夫
出版者
日本認知心理学会
雑誌
認知心理学研究 (ISSN:13487264)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.101-120, 2015-02-28 (Released:2015-04-16)
参考文献数
56

本研究では日本人高校生用の日英両語のリーディングスパンテスト(RST)を開発し,集団による短時間での実施が可能であるかどうか試行した.その結果,本研究で開発したRSTの信頼性係数は日本語(α=.864),英語(α=.875)ともに高く,得点分布に正規性が示され,RSTを集団で行うことが可能であることが示された.このテストを用いて,高校2年生を対象に日英語RST得点の相関を分析したところ,英語習熟度の高い群の相関係数は.677,低い群は.531であった.英語専攻の大学生を対象にした先行研究では日英語RST得点の相関係数は.84と報告されている.これらの結果は,第二言語の習熟が進んだ学習者は未熟な学習者よりも日英語RSTの相関係数が高いことを示し,その理由として,第二言語に熟達した読み手は第二言語読解を母語読解に近い形で行うことができるからではないかと推測される.
著者
時本 真吾
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、伝達意図理解における演繹とアブダクションの脳内機序を、会話の語用論的操作によって実験的に考察した。まず、両推論が惹起する事象関連電位(ERP)を測定し、それぞれの脳内処理に対応するERP成分を特定した。即ち、アブダクションは演繹よりも、潜時約400msの陰性成分(N400)の振幅が大きかった。N400は一般に意味処理の指標と考えられているので、アブダクションの振幅が演繹談話よりも大きかったことは、前者が後者よりも、より複雑な脳内処理を伴うことを示唆する。また、両推論が惹起する脳波の周波数スペクトル分析を行った結果、パワー値の大小は潜時帯、周波数帯域によって異なることが明らかになった。
著者
時本 真吾
出版者
目白大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は,発話理解の実時間モデルの構築を目標に,統語的情報,韻律,作動記憶制約の実時間相互作用を実験的に検討するものである。本研究の新知見は,(1)文内の依存関係決定処理において,韻律特性の一つとしての統語的休止(syntactic pause)は確かに効果を持っているが,統語的情報を覆すほど強くはないこと,また,(2)統語的休止の効果は処理負荷の低い文よりも高い文において顕著に現れること,(3)さらに作動記憶制約の影響は高負荷の文よりも低負荷の文について顕著に現れることである。本研究の知見は,統語的・音韻的制約の運用機序が,作動記憶容量を含む心的資源の大小によって変化することを示唆している。また,本研究は,作動記憶容量の大きな話者の方が小さな話者よりも言語処理効率が高いという通説に反し,大容量話者は低容量話者よりも文理解が正確だが,低容量話者よりも処理時間が長い傾向を見いだした。この知見は言語処理の効率性の議論に再考を促すものであり,作動記憶容量の大きな話者がより効率的な認知処理を実現するなら,なぜ作動記憶にこれほどの強い容量制限があるのかという理論的問題に進化心理学的解決の糸口を与えるものである。